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パソコン上で音楽作成・作曲・演奏を行なうこと。
厳密な定義は無いに等しいが、基本的にはパソコンと一つのオールインワン音源を使って、「趣味で」音楽作成・演奏を行なうものを特にDTMと呼ぶ。
現在壊滅状態のDTM界であるが、大昔、まだインターネットは普及しておらず草の根BBSが全盛の頃、日本のDTM界も全盛を極めていた。日本のDTM史を語るにおいて、鎌倉の草の根BBS局「ゆいNET」の名を外すことはできない。
当時はDTM音源とも呼ばれる、MIDIに繋げるシンセ音源モジュールが飛ぶように売れていた。SC-55、SC-88といったようなものである。ローランドとヤマハを筆頭に、各社がしのぎを削っていた。
まだmp3などもなく、皆はDTM音源を鳴らして音楽を楽しんでいた。そしてこの時代の若い作曲家は、自作曲や流行曲などをMIDIファイルにして草の根BBSで公開し、掲示板で評価を仰いだ。そして、その批評から次の作品へ、といった形で彼らは腕前を上げていったのである。現在活躍中の作曲家の中には、こうして成長した者も少なくない。
しかし草の根BBSの時代も終焉を迎え、インターネットが普及しはじめる。
ネットでも、いくつかBBSを利用した活動はあったようだが、大きなものは産まれなかった。加えて、ブロードバンドの普及、mp3などの音声情報の圧縮技術も普及した。DTM音源が特別に必要な時代は一旦終焉を迎え、音源のモデルチェンジも無くなっていった。
かくしてDTMは大幅に衰退、パソコンショップからもDTM音源が姿を消し、その場所はパソコン用スピーカー売り場に奪われる形となった。DTM音源は、楽器屋でしか購入できなくなった。
WindowsにはMIDIの機能と、音質は悪いがソフトウェア音源が内蔵されているので、ソフトウェアさえ何とかすればDTMすることは可能である。携帯電話用の着信メロディなどで需要もあり、細々と活動する人がいた。
しかし、JASRAC等が著作権侵害のMIDIファイル一掃を開始し、いよいよ日本のDTM界は壊滅への道を疾走することになる。パソコンでCDやmp3などを使うユーザーは多いが、MIDIはその存在自体、忘れ去られたのである。
一応、パソコン用のゲームで使われることはあるが、利用者はそれを意識する必要がないため、音源を変えれば音質が変わる、ということ自体忘れ去られた。高音質を求めてDTM音源を買い求める、といった光景は、もはや見られない。
勉強する機会を失った日本の作曲家のレベルは、これに同期して衰退の一途を辿っており、今後の日本の音楽がどうなるのか不安視されるようになる。
今やmp3などで耳が肥え、曲だけでは聞いてくれない人が多くなった時代である。曲だけではコメントを貰うどころか、聴いてすら貰えない。だが、かといって自分の曲に合う歌手もそうそう身近にいるわけではなく、また人間を使うとなると金銭や時間、場所の問題等もあり、個人の趣味の範囲を超越していた。
そんな日本のDTM界に突然、彗星のように登場したのが「初音ミク」であった。音楽関連ソフトは年間1,000本売れれば御の字という状況の中、発売後2ヶ月で2万本以上が売れるという空前のブームとなった。当然生産が追いつかず、店頭でも売り切れ続出でなかなか手に入れられない状況となった。
このソフトウェアは人工ボーカルであり、つまり歌手である。歌詞と音程などを入力すると、その通りに、しかも可愛い声で歌ってくれる。これに、別途録音した音楽を合成すればボーカル付きの曲のできあがりとなる、夢のようなソフトウェアであった。
ここで息を吹き返したのが、今もDTMを楽しんでいたアマチュア作曲家だった。自作曲、あるいはコピー曲にボーカルを付け、ニコニコ動画などで公開を始めたのである。
歌手がいないという問題は、初音ミクのおかげで解決されたわけである。しかも、ネット受けしそうな可愛い声であったため、作曲家としても大満足となったようだ。
かくして、自作曲を広く聴いて貰える機会がネットに再び復活した。そして、その感想などもネットから得られる時代が再び訪れたのである。
自分の作った曲が何万回も、できが良ければ何十万回でも聴いて貰える。これも、初音ミクが飛ぶように売れた理由の一つと見ることができる。
更に、ここで公開された曲を「自ら唄って公開する」人も現われた。当然、その曲が気に入ったから歌うわけである。作曲家としても、これ以上の喜びはないだろう。
作曲を本格的に行なうには、当然楽器は不可欠である。既に忘れ去られて久しいが、パソコンはMIDI経由で楽器を繋げることができるのである。今はUSBでMIDI楽器に接続する装置も安価に売られている。
現在、ネットで公開された作品はFlash等であるため、再生にはMIDIもDTM音源も不要である。これを作るためには少々コストは掛かるが、見る方はパソコンがあれば良いので、広い層に見てもらうことが可能。そして、パソコンで作曲するという、忘れられた楽しさを、あらためて世に知らしめる機会を提供することとなった。
JASRAC等利権団体の活動の成果もあり、ネット上から消滅した「評価が得られる場所」が、再びネット上に出来た。今後は、作曲家を志す若者が再び増える可能性もあり、期待されている。
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