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既に分化が終わった生体細胞に人工的に遺伝子を導入することで、幹細胞と同等の能力を確保した細胞のこと。通称は「iPS細胞」。
以前は、人工的に幹細胞を得るには、受精卵から胚性幹細胞(ES細胞)を作るしかなかった。ただこれは、一度分化を終え機能を持った細胞からは自身と同じ遺伝子を持った幹細胞を作れないことを意味していた。
一度受精卵からやり直すとして、患者が精子または卵子を提供し、他人から卵子または精子をもらって受精卵を作ったとする。しかしここからES細胞を得たとしても、このES細胞の半分は他人の染色体であるため、患者に移植しても免疫的に拒絶される。
これを回避するため、マウスなどで「単為生殖」させた卵子からES細胞を得るための研究が進められたりしているが、ヒトへの応用は難しいと考えられた。iPS細胞は、遺伝子的にも患者と同じものを作ることが可能であり、今後が期待されている。
どのような機構で細胞の分化が初期化されるのかは、なお定かではない。
山中伸弥教授が成功した最初の例では、四つの遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)の導入でこれを成功させた。発見者から、この4因子を山中因子(Yamanaka factors)と呼ぶ人もいる。
このうち、c-Mycは、無いと効率が下がるが必須ではなく、また細胞をがん化させる可能性があることも分かってきた。c-Mycなしでの初期化が研究され、これをGlis1に置き換えることで、より安全かつ高効率での初期化を成功させた。
これらはすべて転写因子であり、他の遺伝子の発現を制御する遺伝子である。これら4種類を導入することで、この遺伝子の制御下にある多数の遺伝子が発現し、結果としてiPS細胞が作られるということである。
「遺伝子を導入する」とは、その遺伝子を細胞核内に入れることである。
しかし、それは簡単なことではない。生物の遺伝子は、他の遺伝子に侵されないよう防御機構が備わっているからである。
従って従来は、必要な遺伝子を組み込んだレトロウイルスを皮膚細胞に感染させて遺伝子を導入してiPS細胞を作る、という方法がとられていた。しかしこのウイルスは皮膚細胞の染色体を傷付けるため発がんの恐れがあり、臨床応用での実用化という点で問題があった。また感染の恐れがあり、研究者にも危険が伴った。
山中伸弥教授ら研究グループはこの問題について、細胞内で数日で分解される環状DNA「プラスミド」に遺伝子を組み込み、それぞれを細胞膜と一体化する脂質の膜で包んでマウス胎児の皮膚細胞に導入、iPS細胞を作ることに成功した。
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