Ia型超新星
読み:いちエイがたちょうしんせい
I型超新星
のうち、
珪素
(Si=
シリコン
)の吸収線が特徴的なもの。
目次
概要
特徴
吸収線
性質
主な超新星
補足
細分類
質量の増加
核融合
爆発
爆発で合成される物質
SN 2014J
概要
初期に、I型超新星として観測されていた。Ib型などが発見されたため、I型はIa型に改名され今に至る。
Ia型超新星は
連星
系の
白色矮星
が
超新星爆発
を起こすものである。
白色矮星は、
チャンドラセカール限界
によって太陽質量の1.44倍程度が上限となる。万一この質量を超えてしまうと、白色矮星は重力収縮によって崩壊する。
II型超新星
に比べ、爆発後にできる重い元素の中に
鉄
が多い。
特徴
吸収線
珪素
による615nm付近の吸収線(実験室では635.5nmなので、-10000km/s(-8640.0km/cBeat)程度の視線速度のため
青方偏移
している)を特徴としている。
後に、中性ヘリウムの吸収線の超新星が見つかった時、これを
Ib型超新星
とし、従来のI型超新星をIa型超新星と呼ぶようになって現在に至っている。
性質
数ある
超新星
の中でも、Ia型超新星は特異な性質を持っているため注目を集めている。
他の型の超新星は、「星が活発に生まれる場所」つまり
渦巻銀河
や
棒渦巻銀河
の円盤部分(腕部分)にしか出現しない。ところが、Ia型超新星は星が生まれていないはずの古い銀河である
楕円銀河
にも出現する。
加えて、Ia型超新星は他の型の超新星よりも明るく、そして光度変化が早く、そして最も重要な点として「最も明るいときの光度(絶対等級)がほぼ均一」、といった特徴がある。
Ia型超新星の絶対等級はほぼ-19.3等(
太陽光度
の約50億倍)で、殆ど誤差がない。
ここから、Ia型超新星が暗く見えれば遠く、明るく見えれば近いということになり、その明るさから超新星の距離、延いては所属する銀河の距離がかなり正確に求められることになる。
主な超新星
Ia型超新星は膨大な量が発見されているが、その中でも特に論文の中に見られるなど注目されることがあるものに、次のようなものがある。()で併記するのは所属する銀河等の名称。
SN 185
(
銀河系
) ‐ 観測史上最古の超新星
SN 1572
(銀河系) ‐ ティコの超新星
SN 1604 (
銀河系
) ‐ 銀河系内の超新星として最後に発見されたもの。Ia型と推定される
SN 1885A (
M31
) ‐ アンドロメダ座S星
SN 1939B (
M59
)
SN 1957B (
M84
)
SN 1960R (
M85
)
SN 1971I (
M63
=NGC 5055)
SN 1989M (
M58
)
SN 1991T (NGC 4527)‐ Ia-91t型の代表
SN 1991bg (M84) ‐ Ia-91bg型の代表
SN 1994D (NGC 4526)
SN 1997ff
(Anon J123644+6212)‐
赤方偏移
により膨張宇宙モデルの証拠となった
SN 1999cl (
M88
)
SN 2000cx (NGC 524)
SN 2001gd (NGC 5033)
SN 2003cg (NGC 3169)
SN 2003ia (NGC 6109)
SN 2004W (
M60
)
SN 2006X (
M100
)
SN 2006gs (NGC 3977)
SN 2008J (MCG-02-07-33)
SN 2009dc (UGC 10064) ‐
チャンドラセカール限界
を超えて観測された初のIa型超新星
SN 2010gv (SDSS J175822.33+504733)
SN 2010he (NGC 1120)
SN 2011B (NGC 2655)
SN 2011ek (NGC 918)
SN 2011fe (
M101
)
SN 2011fp (NGC 57)
SN 2011im (NGC 7364)
SN 2011iy (NGC 4984)
SN 2012gb (IC 5193)
SN 2013fa (NGC 6956)
SN 2013gn (NGC 5557)
SN 2013hg (Anon J120955+2953)
SN 2013hl (NGC 3910)
SN 2013hq (NGC 7276)
SN 2014J (
M82
)
SN 2014ai (NGC 2832)
SN 2014dg (UGC 2855)
SN 2014dm (NGC 1516A)
SN 2014dt (
M61
=NGC 4303)
SN 2015A (NGC 2955)
SN 2015bd (NGC 3662)
SN 2016W (NGC 946)
SN 2020nlb (M85)
補足
細分類
Ia型超新星も、更に細かく分類があり、例えば次のように分けられる。
Ia-norm ‐ 光学的/測光的に通常であるもの
Ia-91t ‐ Ia型超新星のうち、その光度曲線/スペクトルが SN 1991T に類似するもの
Ia-91bg ‐ Ia型超新星のうち、その光度曲線/スペクトルが SN 1991bg に類似するもの
Ia-pec ‐ その他のIa型超新星 (例えば SN 2000cx など)
星のデータベースSIMBADではIa-91tやIa-91bgといった分類は使わず、Ia-pec(表記上は SNIapec または SNIap)としているようである。またIa-normは単に SNIa と表記している。
質量の増加
Ia型超新星は、連星系でのみ生じる。発生機序は、次の二説が存在する。
降着説
合体説
うち、有力視されているのは降着説である。
白色矮星
(
炭素
と
酸素
が主成分)に、隣の天体(恒星など)からのガスが白色矮星に降着して徐々に白色矮星の質量が増え、やがてチャンドラセカール限界を超える、または核反応等によって
超新星爆発
するという説である。
合体説は二つ(以上)の天体が合体するものであり、この場合は合体の瞬時にチャンドラセカール限界を超えることになる。
核融合
降着説では、徐々に質量が降着し、やがてチャンドラセカール限界に到達することになる。しかし実際には、対流などによってチャンドラセカール限界寸前で踏みとどまり、降着では限界を超えることはないとする説がある。
しかし爆発寸前の状態でやがて
核融合
が始まり、すなわち白色矮星は
恒星
に変化する。ただし、核融合の燃焼過程を制御する能力を持たないため、核融合は暴走しやすいとされている。
その中で太陽質量の数倍はないと生じないとされる核融合反応
炭素燃焼過程
が生じるとされ、やがて大質量星でしか起こりえない
酸素燃焼過程
までが生じるとされる。核融合で白色矮星の主成分である
炭素
と
酸素
が消費され、酸素燃焼過程では
珪素
までが
元素合成
される。
この珪素の存在が、Ia型超新星のスペクトル線の特徴である珪素の吸収線の由来になると見込まれている。
爆発
核融合によって内部温度は上昇する。
温度が上昇することで、星をつなぎ止めている重力結合エネルギーよりも、星をバラバラにする
運動エネルギー
の方が勝るようになり、結果として
衝撃波
を放出しながら星全体が吹き飛ぶ超新星爆発に至る。
天体内や周辺の物質は光速の約6%の速度で吹き飛ばされるとされており、また放出されるエネルギーが天体の光度を急激に高める元となる。
爆発で合成される物質
超新星爆発時に起こる核融合反応で重元素が合成されるが、元となる中性子星が主に
炭素12
と酸素16で構成されているため、爆発時に合成される重元素も陽子と中性子が同数になりやすい。
中でも多く作られるのが
ニッケル56
(
56
Ni)である(陽子数=中性子数=28)。この同位体は不安定なのでβ
+
崩壊で
56
Ni→
56
Co→
56
Feという崩壊経路を経て、半減期約3ヶ月で鉄56に変わる。この反応により、Ia型超新星からは大量の鉄が供給される。
ただし、親星の質量が
チャンドラセカール限界
に近い場合などでは
中性子捕獲
の反応が生じ、ニッケル56からニッケル57を経てニッケル58(
58
Ni)が作られる。ニッケル58は安定核種であるため、これは爆発後にもそのまま残る。同様の理由により、核融合反応で生じるものは不安定な核種ながら中性子捕獲で安定核種となった
マンガン
(Mn)や
クロム
(Cr)といった物質もみられる。従って、これらの元素を多く含むIa型超新星は、親星がチャンドラセカール限界に達したことの証明となる。
SN 2014J
2014(平成26)年におおぐま座の銀河
M82
に出現したIa型超新星(核暴走型)のSN 2014Jのγ線観測により、爆発の仕組みが明らかになってきた。
Ia型超新星爆発の際には、おそらく
珪素燃焼過程
において
ニッケル56
が作られるが、従来理論では白色矮星の中心より核反応が始まるため、このニッケル56由来の
γ線
は数ヶ月間は周囲の物質に隠されて見えないとされてきた。
しかしSN 2014Jの場合、爆発から約18日の段階でニッケル56の崩壊にともなうγ線が検出され、従来説が誤りであることが判明した。
まだSN 2014Jでしか観測できていないため他のIa型超新星がどうかは不明な状態だが、他も同様であるなら、核反応は白色矮星の表面付近で生じ、このときにニッケル56が作られる。さらに表面の核反応は白色矮星の中心部にまで伝わり、結果として星全体が吹き飛ぶ超新星爆発に至るという新理論が導かれる。ニッケル56は表面にあるため、これが比較的早期に観測されたということになる。
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