トリウム232
読み:トリウム-にひゃくさんじゅうに
外語:232 Th

 トリウムの同位体の一つ。
目次

情報

概要
 トリウム系列の最初の核種。天然に産出するトリウムのほぼ100%がトリウム232で、ウランカリウムと共に自然放射能の三大要因となっている。
 半減期は140.5億年と長く、このため徐々にα崩壊し、α粒子(α線)を放出して、ラジウム放射性同位体であるラジウム228(228Ra)になり、その後も崩壊を続けて最終的に鉛208(208Pb)になる。これがトリウム系列である。
 地球の地熱は、このラジウムやウランが地中深くでα崩壊することよって発生した熱が起源となっている。
 様々な系列で崩壊するが、代表的には、最初の数回は次のような崩壊をする。
  1. 232Th → α崩壊(半減期141億年) → 228Ra
  2. 228Ra → β崩壊(半減期5.75年) → 228Ac
  3. 228Ac → β崩壊(半減期6.15時間) → 228Th
  4. 224Ra → α崩壊(半減期3.66日) → 220Rn
  5. 220Rn → α崩壊(半減期55.6秒) → 216Po
  6. 216Po → …

特徴

放射能
 放射性同位体であるため、放射線を放っている。
 α線を放つため、放射性沃素放射性セシウムなどより危険と見込まれている。
 しかもこれが、地殻中に0.0007%も含有し資源量が豊富で、かつ地理的に偏っておらず全世界で満遍なく採取される。こうして、知らず知らずのうちに日々放射線に被曝することになるが、これを自然放射能という。

人工用途
 中性子を吸収してβ崩壊(β崩壊)すると、核燃料であるウラン(233U)に転換する特徴がある。
 トリウムは豊富に産出するので、これを原子力発電に使うことが研究されている。
 トリウムは主にトーライト(トール石)、トリアナイト、モナザイト(モナズ石)などの鉱物として産出する。

中性子捕獲
 トリウム232は中性子捕獲によって、次のように変化する。
  1. 232Th + n(中性子捕獲) → 233Th(トリウム233)
  2. 233Th → β崩壊(半減期21.83分) → 233Pa(プロトアクチニウム233)
  3. 233Pa → β崩壊(半減期26.967日) → 233U(ウラン233)
 中性子捕獲して233Thに変化することで、その後、ネプツニウム系列に乗ることになる。

ブラジルの療養地
 日本ではラジウム温泉が好評で、がん患者などの湯治で客が絶えることは無いが、海外でも温泉こそないが同様で、トリウムの放射能で病気が治るとする浜辺がある。
 ブラジル南東部、エスピリトサント州グアラパリ市の「アレイアプレタ(黒砂)ビーチ」は自然放射線量が世界最高水準とされる浜辺である。この周辺住民は年間約10ミリシーベルトを浴びているとされる。
 この浜辺の黒砂は、付近の鉄鉱石鉱山から流出した放射性元素トリウムを含む鉱物モナザイトで、これが海に流れ込み、地形と潮流の影響でこの浜辺に集まるとされる。それ以外の浜は淡黄色の白砂であり、放射線量は普通である。黒砂の砂浜は年間放射線量が400ミリシーベルトに及ぶとの調査もあり、かなりすごい砂浜である。
 古くから効能が知られ、先住民の時代から療養に使われていた。黒砂の放射線が血行に影響するとの仮説もあり、砂浜にただ座って被曝するだけでも効果的だが、さらに効率を高めるため、砂風呂のように砂に埋まる人も多い。
 この砂浜で約30年間、海水浴客らの救命監視員を続けるジョアン・シリロ氏(52歳)によれば、「事故で半身不随になった人が歩いて帰ったんだ」とのことである。
 そんな浜辺も、福島第一原子力発電所の事故で、放射線=危険という必ずしも事実ではない風評被害の影響を受けて、客が大幅に減り、美しい浜辺に閑古鳥が鳴いていると報じられている。

生体への影響
 科学技術庁告示第五号 平成十二年科学技術庁告示第五号(放射線を放出する同位元素の数量等)における、トリウム232の実効線量係数(ミリシーベルト/ベクレル)は、次のとおりである。
 つまり酸化物及び水酸化物を10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は0.92ミリシーベルト(920マイクロシーベルト)、吸入した時の実効線量は120ミリシーベルトである。
 吸いこんだ時がかなり危険であることが分かる。

再検索