ビッグバン宇宙論
読み:ビッグバンうちゅうろん
宇宙
は、高温高密度の状態から
ビッグバン
を起こして始まり、現在に至るまで膨張を続けている、という理論。
目次
概要
ビッグバン
起源
宇宙の進化
相転移
第一の相転移
第二の相転移
第三の相転移
第四の相転移
ビッグバン元素合成
宇宙の晴れ上がり
その後
ビッグバン以前〜誕生
はじめに
必要な理論
現代での考え方
概要
ビッグバン
宇宙の最初の姿は、超高温超高密度の玉で、これが大爆発を起こし、そして現在でも膨張を続けているとする説である。この説を補うため、爆発直後に大膨張(
インフレーション
)を起こしたとする、
インフレーション宇宙論
と合わせて説明されることが多い。現在の科学者の多くがこれらを支持しており、いわゆる「現代宇宙論」の一つとなっている。
量子力学
では、真空(無の状態)はプラスとマイナスが打ち消しあうため時間も空間も存在しないとされ、その無の状態から
量子論
的効果で10
−34
cmの大きさの宇宙が生まれた。
これが
光速
を遥かに超える速度で膨張(インフレーション)し、この加速膨張が終息した時に宇宙は真空エネルギーから
熱エネルギー
へと変化して、
物質
の素である
素粒子
を生成し始めたとされる。
起源
アルベルト・アインシュタイン
の
一般相対性理論
により、宇宙は永久不変(定常宇宙)ではなく、活動的に膨張し変化していることが示された。それを元に1927(昭和2)年にベルギーのルメートルによって「原始の原子」理論が提唱され、ジョージ・ガモフがそれを発展させて「ビッグバン宇宙論」を提唱した。後に
エドウィン・ハッブル
によって宇宙は実際に膨張していることが観測によって示された。
膨張がずっと続いているとすると、時間を遡れば宇宙は遥か昔、極めて小型だっただろうと容易に予想される。さらに、宇宙の物質全てが小型に圧縮されていたとなると、それは極めて高温高密度だったと考えられる。そして、この高温高密度の宇宙が爆発するかのように宇宙が始まった、とするのがビッグバン宇宙論である。
宇宙の
温度
が3000Kだった頃の光は現在
宇宙背景放射
として観測されており、また宇宙誕生から1分頃、宇宙の温度が10
9
度の頃に軽い
原子
の
原子核
が作られた証拠も見つかっている。こういった証拠から鑑みるに、宇宙がビッグバンによって誕生したことは現在ではほぼ疑いようがないと考えられている。
宇宙の進化
相転移
宇宙はこれまで、4回の相転移があった。インフレーション宇宙論を提唱した宇宙物理学者、佐藤勝彦は、この4回の相転移に番号を降って第○の相転移、のように呼んでいる。
時刻と温度に関しては様々な論があるので、ここではそのうちの一例を示す。
時刻10
−44
秒(温度10
19
GeV)
第一の相転移 (重力相互作用と他の相互作用が分離)
時刻10
−36
秒(温度10
15
GeV)
第二の相転移 (強い相互作用と電弱相互作用が分離、大統一理論の相転移)
時刻10
−11
秒(温度10
2
GeV)
第三の相転移 (電弱相互作用が電磁相互作用と弱い相互作用に分離、ワインバーグ・サラム理論の相転移)
時刻10
−4
秒(温度10
−1
GeV)
第四の相転移 (クォークがハドロンに変化、QCD相転移)
今後、第五の相転移が起こるのかどうかは定かではない。
第一の相転移
誕生当初の宇宙は極めて高温高密度で、この中で
クォーク
が生じた。これが沸騰し、空間的な広がりを持つようになり、時刻10
−44
秒(温度10
19
GeV)で重力相互作用が他の力と枝分かれした。これが第一の相転移である。
アインシュタインの一般相対性理論の時空の概念が適用できるのは、これ以降である。
第二の相転移
空間の広がりに伴う温度の急速な低下により
グルーオン
が生まれ、時刻10
−36
秒(温度10
15
GeV)の頃に色の力(
強い相互作用
=核力)と
電弱相互作用
(電磁相互作用と弱い相互作用)が枝分かれした。これが第二の相転移である。
重力
を除いた3種類の相互作用(電磁相互作用、弱い相互作用、核力)に関わる理論
大統一理論
から、大統一理論の相転移とも呼ばれる。
第三の相転移
更に空間は広がり、冷却が進むと
電子
が生まれ、時刻10
−11
秒(温度10
2
GeV)頃に電磁相互作用と弱い相互作用が分離する。これが第三の相転移である。
現在知られる4種類の
基本相互作用
は、この段階で全てが揃った。この頃の宇宙の主な構成粒子は
質量
が100GeV(10
15
度相当)以下の素粒子(
レプトン
、
クォーク
、
グルーオン
、
光子
)である。
更に、この過程で
物質
と
反物質
の釣り合いにズレが生じたと考えられている。元々物質と反物質は同等に存在したが、CP対称性(
電荷
と空間反転に対する物理法則の対称性)の破れを持つ相互作用と非平衡状態の組合わせにより僅かに物質が反物質より多くなり、現在の宇宙を物質の世界へと導いた考えられている。
電磁相互作用と弱い相互作用を統一する
統一理論
(ワインバーグ・サラム理論)から、ワインバーグ・サラム理論の相転移とも呼ばれる。
第四の相転移
時刻10
−4
秒(温度10
−1
GeV)になるとクォークとグルーオンから
ハドロン
(
π中間子
、
中性子
、
陽子
など)が形成された。これを第四の相転移、または
量子色力学
(QCD)からQCD相転移と呼ぶ。
この頃は「光の海」とも言われる。
時刻1分頃(温度10
9
度)には中性子と陽子から作られた
重水素
が分解されずに残るようになり、それらが
核融合
反応を起こして
ヘリウム
、
リチウム
、
ベリリウム
などの軽い
原子核
が合成されはじめる。なお、この頃はまだ原子核だけであり、原子としての形は整っていない。宇宙は
プラズマ
に満たされた状態となる。
ビッグバン元素合成
宇宙は膨張を続け温度が0.1MeVにまで低下すると、中性子や陽子が核融合が始まる。これが
ビッグバン元素合成
である。
諸説あるが早くて時刻10秒、一般的な説で時刻3分頃から核融合が始まり、これが時刻約20分まで続いた。
この時に生成されたのが、質量比で
水素1
が約75%、
ヘリウム4
が約25%であり、この時点で宇宙における元素の存在量がほぼ固定されたことになる。
宇宙の晴れ上がり
その後も宇宙は膨張を続けるとともに温度を下げ、約38万年後、温度4000度頃になると、それまで自由に飛び交っていた電子は電磁相互作用によって原子核に捉えられ、原子が形成され始める。
殆どの電子が原子核に捉えられると、電子に直進を阻まれていた光子が直進可能となり、光がさし始める。つまり、「光の海」だった宇宙は透明になった。これを「宇宙の晴れ上がり」と呼ぶ。
光子エネルギーは宇宙膨張により下がるが、この頃の名残りの光子が宇宙空間を満たしており、現在では温度2.74K(-270℃)(約3K)の
黒体放射
、いわゆる
宇宙背景放射
として存在し観測されている。この放射から、宇宙の晴れ上がりから現在まで、1,100倍宇宙が膨張したことがわかっている。逆にいえば、当時の宇宙の大きさは現在の1,100分の1である。
その後
宇宙誕生2億年後には
恒星
が誕生、誕生9億年後に原始銀河の誕生が起こり、誕生12億年後には銀河が大規模構造を作るようになる。X線天文衛星
チャンドラ
の観測により、宇宙誕生から10億年後には既に
超大質量ブラックホール
が存在していたらしいことが分かっている。
そして誕生71億年後に宇宙は減速膨張から加速膨張に切り替わった。
その後は太陽系が誕生するなどし、現在に到っていると考えられている。
ビッグバン以前〜誕生
はじめに
ビッグバン以前には、
時間
も
空間
もなく、何もないとこから宇宙は生まれた。
但しこの説明には次のように矛盾がある。
ビックバン以前→「以前」という部分が時間の話になっている。時間は無いと上述した。
何もないところ→「ところ」という部分が空間の話になっている。空間は無いと上述した。
従って、この時空の尺度を用いない
量子力学
(まだ無い)をまず考えなければ、ビッグバン以前を語ることはできない。
必要な理論
宇宙のサイズがプランクスケール(
超弦理論
のひもの寸法、10
−33
cm)より小さかった以前の状態については、現代の物理学の範疇では定義できない。それを記述する術がない。従って、現代の科学では言い表わすことができない。
例えば、
量子論
に対しては古典論となる
一般相対性理論
からでは、特異点定理により宇宙の初めは
特異点
になってしまう。それでは
ブラックホール
と変わらない。
従って、以前を語るためには「重力の量子論」の完成を待たねばならない。
現代での考え方
現段階での一番確からしい考え方では、その「何もない状態」から「宇宙がある」という状態に移行するのに、
トンネル効果
で説明が付くとはされている。
無と宇宙の間には巨大なエネルギーポテンシャルが立ちはだかるが、これを越えられたのはトンネル効果という物理現象があったからだ、とされている。
トンネル効果自体はLSIの中でも起きている一般的な現象で、このようなトンネル効果が起こることで状態は遷移できる。ただ、遷移をするためには時間は無くてはならず、上述した「時間がない」と矛盾する。
そこで、通念的な時間ではなく、メタ時間(超時間)で考える。メタ時間は単なる観念なので、ビッグバン以前にも延長して考えられるとする。こうすると、メタ時間に始まりはあるのか、無限に続くのかといった問題が出てくるが、とりあえずこの問題についてはここでは触れない。
このメタ時間のうち、ビッグバン以前のメタ時間として、
スティーヴン・ウィリアム・ホーキング
は「虚数時間」という概念を導入している。つまり、この頃には実数時間はなかったが、虚数時間なら存在したとする。
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