夜尿症
読み:やにょうしょう
外語:nocturnal enuresis

 おねしょ(寝小便)の病的な状態。医学的定義としては、6歳(小学校1年生)以上になっても、つまり学童期でもおねしょが多い場合をいう。
目次

情報

概要

おねしょと夜尿症
 「おねしょ」(寝小便)というのは見て分かるシンプルな症状で、寝ながら放尿し、結果として衣類や寝具を濡らしてしまうものである。
 それ自体は、尿による肌荒れやかぶれが生じる等の問題はあれ生死に関わるような病態ではないが、続く間は本人に精神的なストレスとなること、また集団生活するようになると困ることにもなるため、対策が必要になる。
 おねしょ自体は乳幼児の頃は誰でもするが、成長に伴い減る。しかしそれが学童期になっても続く場合、それは夜尿症という病気として扱われる。

病態
 本来なら成長に応じて抗利尿ホルモンが働くようになり、また膀胱容量も体の成長に応じて増え、夜間に作られる尿量を膀胱に蓄えることができるようになるため自然におねしょは癒ることになる。一般には3歳程度から排泄の制御が可能になるとされる。
 その原因が、単に「おねしょが治っていない」だけであれば、成長によって「そのうち治る」ことになるため、小児科医すら「おねしょ」を甘く見る者もいるのは事実である。
 しかし主訴が「おねしょ」であっても、率は低いが典型的でない場合に鑑別すると病気として尿崩症が見つかることもある。

病因
 学童期になっても続くおねしょは夜尿症と呼ばれ、病気として扱われる。
 様々な原因が考えられているが、これ、という明確な原因は必ずしも明らかではない。複数の要因によることもある。概ね、次のようなことにより起こると言われる。
 夜間尿量が少ない場合は膀胱容量不足、多い場合はホルモン不足が疑われる。
 きょうだいが出来た途端にぶり返す場合はストレスが原因である可能性が高い。

分類
 上記原因より、次のようなタイプに分類することができる。呼称については一例であり、学術的定義があるわけではない。

一次性と二次性
 この夜尿症のうち、赤ん坊の頃から引き続くものを一次性夜尿症、一度は癒った後(ある定義では6ヶ月以上おねしょ無しの後)に再発したものを二次性夜尿症という。
 二次性夜尿は概ね精神的な要因で、弟や妹が生まれた、保育園や幼稚園への入園、小学校入学、両親の不和といった様々な心理的ストレスがその原因となる。

診察

検査内容
 夜尿症の検査は次のようなことを行ない、結果から原因を判断して治療を開始する。
血液検査
血液中のミネラルバランス等を検査し、腎臓機能を調べる。
尿検査
朝一番の尿と、昼間の尿の、濃さ・重さを比較し、ホルモン機能を調べる。ホルモンが働いていれば、朝の尿は濃く、重い。
腹部超音波検査
エコー検査で腎臓尿路に異状が無いかを調べる。また膀胱の膨らみ具合なども調べる。
膀胱容量検査
尿を限界まで我慢してから、何ml出るかを測定する。
 朝一の尿は自宅で摂り病院に持って行くことになる。
 膀胱容量検査も通常は自宅で行なうが、病院によっては膀胱内圧測定などを始めたりするらしい。確かに、この方が正確に検査可能ではあるが、本人は恥ずかしいに違いない。

開始時期
 そのうち癒るだろうと楽観的に考えていても、小学校の中学年程度でもなお夜尿症である場合、高校まで引きずる人が1割程度いるとされる。
 治療は小児科泌尿器科の扱いであり、背後に病気がある場合は専門医の診察が必要である。但し、多くの場合、病院に行ったから早く治るという訳でもない。
 小学5年生あたりから宿泊学習が始まるため4年生くらいになって病院に駆け込んで来る親子も多いが、即効性の治療は存在しないので治療は長丁場である。どうせ病院に行くなら早いほうが良い。

治療

治療方針
 治療は根気が必要である。夜尿症は遺伝的要因もあるとされており、意外と治療には手こずるものである。長丁場を覚悟しなければならない。
 原因を特定するためにも日々の記録は重要であり、次のようなことを根気強く記録していく。
 治療のためには古くより「決して叱らず、睡眠中に起こさない」が必要とされる。怒ることはそもそも無駄。誰も好き好んでおねしょをしているわけではない。夜尿症はいびきと同じで、自分の意思では止めることができないのである。起こさないことについては現在は研究も進み、結果として異論もあるが、無意味に起こすことは今も推奨されていない。
 なお、薬物療法もあるが、そもそも根本的な解決になっていないことや、止めた後は再発しやすいこともあり、治療としては議論が分かれる。

睡眠方針

睡眠方法
 早寝早起きで、規則正しい睡眠を取るのが良いとされている。
 また、夜間の水分塩分の摂取を控え、特に睡眠の数時間前からは水分摂取は控え、睡眠前には排尿させ、必要ならおむつを当てて朝まで熟睡させる(自ら起きた場合は除く)ことを基本とする。
 また、塩分も尿量を増やす原因となるため、塩辛い料理なども控える方がよい。
 本人の意思が最も重要であるが、それでもおむつを嫌がる場合、必ずしも毎日ではない場合は「防水シーツ」が便利である。原因が精神的なものの場合、この安心感によって治療が早まる可能性もある。
 防水シーツでは掛け布団が濡れてしまうという場合は、レインコート(カッパ)のズボンを着せるという生活の知恵もあるようだが、もう少しパジャマなビジュアルの商品として「おねしょズボン」などと呼ばれる内側に吸水層と防水層を持つパジャマズボンも市販されている。
 この他、おねしょアラーム(夜尿アラーム)を使用した夜尿アラーム療法(条件付け訓練法)もあるが、これは親の負担がかなり大きい。

起こさない
 おねしょを治療するためには、「夜中に起こしてはいけない」と古くから言われている。
 但し、これに根拠があるわけではない。現在ほどの医療もなく、明確な原因も定かではない中で、古くからそうしてきて、たまたま成績が良かったこの方針が自然に取られるようになったと見込まれる。
 古くは、むやみに睡眠中に起こすと睡眠リズムが崩れて抗利尿ホルモン分泌が減ると言われていた。但し、減ったという疫学的な研究成果は知られていないため、実際には不明である。
 現在は夜尿症の研究も進み、夜中に起こしても問題ないような治療法も開発されている。実際に、おねしょをしてしまった後、あるいは出ている最中に気付いた場合は、必要なら起こしてトイレに行かせ、着替えさせてよい。そのまま寝かせているとかぶれの原因にもなり健康上もよくない。

膀胱容量を増やす
 日頃から我慢が不足し、頻繁にトイレに行くようだと、膀胱容量が増えない傾向にある。
 どうあっても一晩の間に腎臓が作る尿量を貯める膀胱容量は必須なので、尿量が正常であるなら、この尿量以上の膀胱容量を実現する必要がある。
 起こさずに毎晩限界まで我慢させることは、その後はおねしょに至ってはしまうものの、膀胱容量を増やす訓練になると考えられる。結果として、徐々に夜尿症が治っていくことに繋がるのではないか、とも考えられる。
 従って、子供が自分で尿意で目覚めトイレに行くならともかく、尿意に気付かず熟睡してる子供を親が起こしてトイレに行かせることは、膀胱の訓練の妨げになり、結果として夜尿症を長引かせる恐れがある。
 また、夜間に起こすことは一見おねしょはしていないように見えるが、実際には「睡眠中におしっこをする癖」を定着させている可能性があり、医者によっては「トイレでおねしょをしている」などと言うこともある。それはおねしょをする場所が布団の中からトイレの中に移行しただけで、また癖になってしまうと薬では癒せない。

訓練

種類
 確実に効果のある方法、というものは現時点ではないので、対処療法として、患児の問題点を一つずつ克服していくことになる。
 治療のための訓練としてよく知られるものに、次ようなものがある。
 尿が腎臓側へ逆流する疾病を患っている子供には、我慢はむしろ有害であるので、実施前に医師に相談するべきである。

排尿抑制訓練
 排尿抑制訓練とは、尿意を感じても、なるべく我慢する習慣を付けるだけの単純な訓練である。
 日頃から我慢すると膀胱が大きくなることがよく知られている。この訓練により、徐々に膀胱に貯める力を養う。そして、我慢後の尿量は毎回必ず計量し記録する。
 最初は5分などから始め、徐々に時間を延ばしていく方法とするが、この訓練では我慢しきれず漏らしてしまうこともあるため、帰宅後や休みの日など時間がある時に家庭内で実施する。
 6〜7歳で150ml、8〜9歳で200ml、10歳以降で250ml以上を溜められるようにするのを目標とする。
 なお、一般に体重1kgあたり7ml以上が膀胱容量の正常とされる。

夜尿アラーム療法

内容
 おねしょアラーム(夜尿アラーム)と呼ばれる装置を使い、おねしょをしたところで子供を起こす、条件反射訓練をするものである。
 多尿による夜尿症への効果は確認されていないが、原因不明の難治性夜尿症には劇的な効果があるとされる。
 装置は医療機関から購入可能で、日本では8歳以上が適用となっている。

実施方法
 具体的には、パンツに水分を調べるセンサーを取りつけて寝るだけである。おしっこをするとパンツが濡れ、その水分をセンサーが検知する。ここでアラームが鳴り、子供を起こす。
 但し実際には、子供は眠りが深いのでアラーム程度では起きない。親が体を揺すったりして起こしてトイレに行かせ、おしっこが残っていれば完全に排尿させたのち着替えさせてまた寝かせる、という事を毎晩のように繰り返す必要がある。

効果
 早ければ2〜3週間、通常は最低でも3ヶ月は続ける必要があり、根気と忍耐が必要な療法である。
 続けているうちに、次のような効果が見られるとされる。
 出る前に起こしてしまうのは良くないと昔から言われてきたが、出た後は起こしても問題はないらしく、むしろ効果的であることが分かってきている。

薬物療法

薬の種類
 夜尿症に対して薬剤を用いる場合は、他の生活指導を充分に行なえることを前提とする。
 そもそも「夜尿症に効く薬剤」は存在せず、一時的に症状が改善されても投薬によって治癒することはない。
 使われる薬剤はいずれも対処療法であり、生活指導の効果を高め夜尿症の根本原因を改善し、もって治療に役立てることを目的に使われる。上述の訓練と併用すると効果的である。
 使われる薬剤には、抗利尿ホルモン三環系抗鬱薬、交感神経刺激剤、副交感神経遮断剤などがあり、いずれも一長一短がある。

抗利尿ホルモン剤
 抗利尿ホルモン剤は低比重多尿型の夜尿症に使い、尿量を減少させることを目的とする。但し服用してから多量の水分を摂ると体内の水分が多くなりすぎる水中毒となるため、投与前から水分制限をせねばならない。
 代表的な医薬品は次のとおり。

三環系抗鬱薬
 三環系抗鬱薬は本来は鬱病の薬だが、この副作用である抗コリン作用主作用として用いる。副作用に悪心や倦怠感などがある。
 服用者の半数に効果があるが、服用をやめると半数が再発すると言われている。
 代表的な医薬品は次のとおり。

交感神経刺激剤
 交感神経刺激剤は交感神経を刺激し外尿道括約筋の緊張を高め、我慢する力を増やす。もって尿をより多く我慢できるようにし、膀胱容量を増加させることを目的とする。手足の痺れや動悸などの副作用が見られる。
 代表的な医薬品は次のとおり。
 膀胱の出口の筋肉を強化することで尿が漏れないようにするのが主たる目的の薬と言える。喘息の薬でもあるので、喘息治療中の場合は過剰投与になるので注意が必要である。

副交感神経遮断剤
 副交感神経遮断剤は副交感神経の機能を抑え、もって膀胱容量を増やすことを目的とする。
 代表的な医薬品は次のとおり。
 これらは、頻尿や尿失禁の対処療法薬として使われているものである。

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