尿素
読み:にょうそ
外語:urea

 陸棲の両生類や哺乳類などが、排泄物として排泄する有機物尿として体外に排泄されるが、乾燥肌を防ぐ薬剤などとして広く利用される物質でもある。
目次

概要

基本情報
 

誘導体、関連物質の例

性質
 強酸化剤、亜硝酸塩、無機塩化物、亜塩素酸塩、過塩素酸塩と激しく反応する。

特徴

発見
 尿素は1773(安永2)年に人尿より発見された。
 尿素を世界で初めて化学合成したのはドイツの科学者ウェーラーである。当時は有機物は生命のみが作り出せるものと信じられていたが、フラスコ内での合成も可能であることを証明し、後の有機化学や生命観に大きな影響を与えた。

有機物
 有機物無機物を分類する化学的な意義はあまりないが、尿素は有機物とされている。
 これは、大昔には生物の神秘的な力でしか作れない物質を有機物としており、生物が作る尿素もそれに該当するとして有機物とされたことに由来する。
 しかし尿素(H2NCONH2)は、実際には炭酸(無機)のアミド体でしかない。歴史的な流れで現在でも尿素は有機物とされているが、このために有機物と無機物の境界はあいまいである。

製法
 尿素の工業的な原料はアンモニアである。日本の場合、工業的には石油プラントの近傍で作られる。
 アンモニアは水素窒素からできている。石油プラントでは天然ガスや石炭、オフガス(石油の精製過程で生じる副産物)を燃やしているが、ここで石油系ガスの蒸気に含まれる水素を分離し、かつ空気中に大量に含まれる窒素と合わせてアンモニアを合成する。このアンモニアの殆どは、同じプラント内で尿素や硫酸アンモニウムなど他の基礎原料を作る材料となる。

動物と尿素

哺乳類
 動物体内で蛋白質をはじめとする窒素化合物が分解されるとアンモニア(NH3)となるが、これは有毒である。そこで、哺乳類はアンモニアを安全な尿素に変換する。
 このための生体内の代謝経路を尿素回路という。
 そして哺乳類はこの尿素をに溶かした尿として排泄物を作り、一旦膀胱に蓄え、液体として排出する方法を採用している。成人で一日に約30gの尿素が尿として排泄されている。
 但し尿素はただの老廃物なだけではなく、筋肉などの組織内にも多く存在している。尿素は1分子内に6ヶ所の水素結合のサイトを持っており、水の分子と馴染みやすい(親水性)。哺乳類は、この機能も有益に利用している。

その他動物
 魚類や水棲の両生類では水が大量に利用できる環境のため、アンモニアのまま排出しても希釈され問題にならない。このためアンモニアで排泄する。排泄物を濃縮する能力を欠いているといえる。
 対して陸棲の両生類は主として尿素に変換して排泄する。
 爬虫類鳥類では尿酸に変換し、固体で排泄する。このため体内の水分を無駄に排泄する必要がなく、陸上生活では有利と考えられる。

排出に見る動物進化
 陸上生活においては、尿素を水に溶かし液体として排出するより、水を無駄に失わない固体での尿酸排出の方が有利である。現実の動物が、どのようにアンモニアを変換して排出するかを見ると、動物進化の流れも見えて来る。
 両生類と爬虫類は共通の生物から枝分かれしている。その後、爬虫類は尿酸排出を獲得し、陸上生活に適応した。爬虫類から進化した鳥類も、この方法を受け継いでいる。
 しかし、それらより進化していると考えられる人類含む哺乳類は、尿素を液体として排出する。これは哺乳類が陸棲の両生類から進化したためであり、その後も尿酸排出を獲得出来ず、今に引きずっているためと言える。
 なお、尿酸といえばヒトでは痛風という疾病が有名だが、実は尿酸排出をする爬虫類や鳥類も痛風になることが知られている。尿酸にも尿素にも、一長一短があるということである。

応用、用途

医薬品
 親水性という特徴を利用すると、皮膚に尿素を塗れば、水分子を皮膚に蓄え肌の乾燥を防ぐ事ができる。
 現在ではアンモニアを主原料とした化学合成品が薬品として利用されている。

ディーゼルエンジン
 現在走っているバスなどクリーンディーゼル車では、燃料である軽油のほかに、「尿素水」を随時補充する。
 クリーンディーゼルで使われている「尿素SCRシステム」は有害な排出ガスを浄化する機構であり、尿素水を高温の排気に噴射することでアンモニアと二酸化炭素に分解させ、発生したアンモニアによりエンジンでの燃焼で生じる有害な窒素酸化物を還元し、無害化させるものである。

安全性

適用法令
 危険物や毒劇物の適用は受けていないが、火に触れると分解し有害なアンモニアを生じるため、取り扱いには注意が必要である。

危険性

有害性

環境影響

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