サルコイドーシス
読み:サルコイドーシス
外語:sarcoidosis
様々な
臓器
に小さな腫れ物(
肉芽腫
)が作られてしまう、原因不明で慢性の全身疾患。
難病
であり、日本でも指定難病の一つである。略して「サ症」。
目次
概要
特徴
症状
疾患
検査
診断基準
(1)組織診断群
(2)臨床診断群
(3)除外診断
臨床所見
呼吸器系病変を強く示唆する臨床所見
眼病変を強く示唆する臨牀所見
心臓病変を強く示唆する臨床所見
皮膚病変を強く示唆する臨床所見
神経・筋病変を強く示唆する臨床所見
その他の臓器病変を強く示唆する臨床所見
治療
概要
全身様々な臓器、例えば、両側肺門リンパ節、
肺
、
目
、
皮膚
、
唾液腺
、
心臓
、
神経
、
筋肉
などに病巣を作る。
両側肺門リンパ節腫脹(BHL)や眼サルコイドーシスとして発見されることが多い。
その原因は不明である。感染性ではないとされており、免疫疾患の一種ではないかと推定されている。
肉芽腫
は「
がん
」のような悪性の細胞ではないが、しかし大きさや数によっては様々な症状が出るため、生活や、時に生命に危機をもたらす。
特徴
症状
具体的な疾患は後述するが、症状は罹患する臓器ごとに様々であり箇所ごとにおおむね次の通りである。
肺
‐ 咳、呼吸苦
目
‐ 霧視、羞明、飛蚊症
皮膚
‐ 発疹、
結節
唾液腺
‐ 慢性唾液腺炎
心臓
‐
不整脈
腎臓
‐ 腎機能障害
脳
‐ てんかん発作、発達障害、
難聴
病変が拡大するまでは殆どが無症状である。また症状があっても、皮下結節などは重症でなければ無視されて病気であることに気づかない。
慢性に進行するが、重症でなければ健康診断などでも気づかれないことが多い。
疾患
サルコイドーシスで侵されやすい器官と、生じる具体的な疾患は次の通りである。(出典: 「サルコイドーシスの診断基準と診断の手引き‐2006要約」)
より詳細な症状は、後述する「診断基準」も併せて参照のこと。
呼吸器系
両側肺門リンパ節腫脹(BHL)
目
肉芽腫性前部ぶどう膜炎(豚脂様角膜後面沈着物、虹彩結節)
隅角結節またはテント状周辺虹彩前癒着
塊状硝子体混濁(雪玉状、数珠状)
網膜血管周囲炎(主に静脈)および血管周囲結節
多発する蝋様網脈絡膜滲出斑または光凝固斑様の網脈絡膜萎縮病巣
視神経乳頭肉芽腫または脈絡膜肉芽腫
その他の参考となる眼病変 ‐ 角結膜乾燥症、上強膜炎・強膜炎、涙腺腫脹、眼瞼腫脹、顔面神経麻痺
心臓
高度房室ブロック
心室中隔基部の菲薄化
枸櫞酸ガリウム(
67
Ga)シンチグラムにおける著明な集積所見
左室収縮不全(左室駆出率50%未満)
皮膚
皮膚サルコイド
瘢痕浸潤
結節性紅斑
神経・筋
無症候性
症候性
中枢神経
実質内肉芽腫性病変
限局性腫瘤病変
びまん性散在性肉芽腫性病変
脊髄病変
髄膜病変
髄膜炎・髄膜脳炎
肥厚性肉芽腫性硬膜炎
水頭症
血管病変
血管炎(精神症状、錐体路症状、記銘力症状、痴呆など)
脳室周囲白質病変(精神症状、痴呆など)
静脈洞血栓症(偽性脳腫瘍など)
脳症
末梢神経
脳神経麻痺
顔面神経麻痺
舌咽・迷走神経障害
聴神経障害
視神経障害
三叉神経障害
嗅神経障害
その他の脳神経の障害
脊髄神経麻痺
多発性単神経炎
多発神経炎
単神経麻痺
(その他の障害)
筋
急性〜亜急性筋炎型
慢性ミオパチー
腫瘤型ミオパチー
その他の臓器
肝病変 ‐ 肝表面の結節、肝多発性低吸収域
脾病変 ‐ 脾腫、脾機能亢進症、脾表面の結節、脾多発性低吸収域
腎病変 ‐ 高カルシウム血症、腎尿路結石、腎腫瘤
消化管病変 ‐ 潰瘍、粘膜肥厚、隆起などの透視、内視鏡所見
リンパ節病変 ‐ 表在性リンパ節腫大、腹腔内リンパ節腫大、縦隔リンパ節腫大
甲状腺病変 ‐ 甲状腺腫
耳下腺病変 ‐ 耳下腺腫大
上気道病変 ‐ 上気道腫瘤
骨病変 ‐ 骨梁減少、のう胞状骨透亮像
関節病変 ‐ 急性関節炎症状、慢性関節炎症状
生殖器病変 ‐ 生殖器腫瘤
その他病変 ‐ 骨髄病変、膵病変、胆道・胆嚢病変など
検査
血液検査
リウマチ因子
(RF)や
抗核抗体
(ANA)、
抗CCP抗体
などが陽性になることが多い
アンジオテンシンI転換酵素
(ACE)が陽性になることも多い
唾液腺
に影響があれば、唾液腺由来のアミラーゼ(S型アミラーゼ)の増加が見られる
眼底検査 ‐ 目に症状がある場合
胸部X線検査 ‐ 両側肺門リンパ節や肺の炎症を確認する
心電図検査
‐ 心臓への影響を確認する
脚ブロック
、房室ブロックなどの不整脈が見られる
ツベルクリン反応
検査
反応の「陰転化」が見られる
皮膚生検(バイオプシー、メスプローベ) ‐
皮膚
に
結節
がある場合、摘出して検査する
診断基準
「サルコイドーシスの診断基準と診断の手引き‐2006要約」によると、サルコイドーシスの診断は組織診断群と臨床診断群とに分け、以下の基準に従って診断するとされている。
(1)組織診断群
一臓器に組織学的に
非乾酪性類上皮細胞肉芽腫
を認め、かつ、下記(1)〜(3)のいずれかの所見がみられる場合を組織診断群とする。
(1) 他の臓器に
非乾酪性類上皮細胞肉芽腫
を認める。
(2) 他の臓器で「サルコイドーシス病変を強く示唆する臨床所見」(診断の手引き参照)がある。
(3) 表1に示す検査所見6項目中2項目以上を認める。
表1
全身反応を示す検査所見
両側肺門リンパ節腫脹
血清ACE活性高値
ツベルクリン反応陰性
枸櫞酸ガリウム(
67
Ga)シンチグラムにおける著明な集積所見
気管支肺胞洗浄検査でリンパ球増加またはCD4/CD8比高値
血清あるいは尿中カルシウム高値
(2)臨床診断群
組織学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫は証明されていないが、少なくとも一つの臓器に「サルコイドーシス病変を強く示唆する臨床所見」(診断の手引き参照)に相当する所見があり、かつ、前記の表1に示した全身反応を示す検査所見6項目中2項目以上を認めた場合を臨床診断群とする。
(3)除外診断
他疾患を十分に除外することが必要である。
除外項目については「診断の手引き」の記載を参照し検討する。
臨床所見
サルコイドーシス病変を強く示唆する臨床所見としては、次のようなものがある。内容については、「診断基準と診断の手引き(2006要約)」による。
呼吸器系病変を強く示唆する臨床所見
病変を強く示唆する臨床所見。
両側肺門リンパ節腫脹(BHL)を認める
両側肺門リンパ節腫脹(BHL)は認めないが、表2のいずれかの所見を認める
表2
胸部画像・気管支鏡所見
胸部X線所見
上肺野優位でびまん性の分布をとる肺野陰影。粒状影、斑状影が主体
気管支血管束周囲不規則陰影と肥厚
進行すると上肺野を中心に肺野の収縮を伴う線維化病変をきたす
CT/HRCT所見
肺野陰影は小粒状影、気管支血管周囲間質の肥厚像が多く見られ、局所的な収縮も伴う粒状影はリンパ路に沿って分布することを反映し、小葉中心部にも小葉辺 縁部(胸膜、小葉間隔壁、気管支肺動脈に接して)にも見られる
結節影、塊状影、均等影も頻度は少ないが見られる. 胸水はまれである. 進行し線維化した病変が定型的な蜂窩肺を示すことは少なく、牽引性気管支拡張を伴う収縮した均等影となることが多い
気管支鏡所見
網目状毛細血管怒張(network formation)
小結節
気管支狭窄
除外診断
慢性ベリリウム肺
じん肺
結核および感染性肉芽腫症
悪性リンパ腫
他のリンパ増殖性疾患
過敏性肺炎
ウエゲナー肉芽腫症
転移性肺腫瘍
アミロイドーシス
などは除外する。
眼病変を強く示唆する臨牀所見
下記の表3に示す眼所見の6項目中2項目以上有する場合に眼病変を疑い、診断基準に準じて診断する。
表3
眼所見
肉芽腫性前部ぶどう膜炎(豚脂様角膜後面沈着物、虹彩結節)
隅角結節またはテント状周辺虹彩前癒着
塊状硝子体混濁(雪玉状、数珠状)
網膜血管周囲炎(主に静脈)および血管周囲結節
多発する蝋様網脈絡膜滲出斑または光凝固斑様の網脈絡膜萎縮病巣
視神経乳頭肉芽腫または脈絡膜肉芽腫
その他の参考となる眼病変
角結膜乾燥症
上強膜炎・強膜炎
涙腺腫脹
眼瞼腫脹
顔面神経麻痺
除外診断
結核
ヘルペス性ぶどう膜炎
HTLV-1関連ぶどう膜炎
ポスナー・シュロスマン症候群
ベーチェット病
眼内悪性リンパ腫
などは除外する。
心臓病変を強く示唆する臨床所見
下記の表4に示す心臓所見を主徴候と副徴候に分け、いずれかを満たし、さらに、表1の全身反応を示す検査所見のうち1項目以上を満たす場合をいう。
主徴候4項目中2項目以上が陽性の場合
主徴候4項目中1項目が陽性で、副徴候5項目中2項目以上が陽性の場合.
表4
心臓所見
主兆候
高度房室ブロック
心室中隔基部の菲薄化
枸櫞酸ガリウム(
67
Ga)シンチグラムでの心臓への異常集積
左室収縮不全(左室駆出率50%未満)
副兆候
心電図
異常: 心室不整脈(心室頻拍、多源性あるいは頻発する心室期外収縮)、右脚ブロック、軸偏位、異常Q波のいずれかの所見
心エコー図: 局所的な左室壁運動異常あるいは形態異常(心室瘤、心室壁肥厚)
核医学検査: 心筋血流シンチグラム(塩化タリウム(
201
Tl)あるいはテクネチウム99m MIBI、テクネチウム99m テトロフォスミン)での灌流異常
ガドリニウム造影MRIにおける心筋の遅延造影所見
心内膜心筋生検: 中等度以上の心筋間質の線維化や単核細胞浸潤
付記
虚血性心疾患と鑑別が必要な場合は、冠動脈造影を施行する
心臓以外の臓器でサルコイドーシスと診断後、数年を経て心病変が明らかになる場合がある。そのため定期的に心電図、心エコー検査で経過観察をする必要がある。
弗素18 フルオロデオキシグルコース PETにおける心臓への異常集積は、診断上有用な所見である
完全房室ブロックのみで副徴候が認められない症例が存在する
心膜炎(心電図におけるST上昇や心嚢液貯留)で発症する症例が存在する
乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が、心筋生検で観察される症例は必ずしも多くない
除外診断
巨細胞性心筋炎を除外する
皮膚病変を強く示唆する臨床所見
サルコイドーシスの皮膚病変は全て組織学的診断で診断可能であるため、組織診断陽性のものをいう。以下表5に皮膚の臨床所見を示す。
表5
皮膚所見
皮膚サルコイド: 特異的病変
結節型: 隆起性病変で浸潤のある紅色の丘疹、結節
局面型: 環状あるいは斑状の非隆起性病変。環状皮疹は遠心性に拡大する病変で、中央部は正常皮膚色でやや萎縮性を呈し、辺縁は紅色でわずかに堤防状に隆起する。斑状病変は類円形あるいは不整形の紅斑
びまん浸潤型: しもやけに類似した皮疹で、暗紅色の色調で、びまん性に腫脹。しもやけの好発部位である指趾、頬部、耳垂に好発する
皮下型: 種々の大きさの弾性硬の皮下結節で多発することが多い。通常被覆皮膚は正常
その他
苔癬様型: 粟粒大の扁平小丘疹が集簇性に多発し、時に全身に播種状に出現する。時に毛孔一致性に生じる
結節性紅斑様: 結節性紅斑に類似した臨床像であるが、組織学的に類上皮細胞肉芽腫を認める病変
魚鱗癬型: 魚のうろこ状の皮疹で、下腿に好発する
その他のまれな症状: 乾癬様病変、疣贅様病変、白斑
瘢痕浸潤: 異物を伴う肉芽腫病変 外傷など外的刺激を受けた部位に生じ、瘢痕に応じて種々の臨床像を示す。膝蓋、肘頭、顔面に好発
結節性紅斑: 非特異的病変 淡紅色の有痛性皮下結節で下腿に好発
除外診断
他の皮膚肉芽腫を除外する: 環状肉芽腫、環状エラスチン巨細胞肉芽腫(AEGCG)、リポイド類壊死、メルカーソン・ローゼンタール症候群、顔面播種状粟粒性狼瘡、酒さ、皮膚結核など
異物、癌などによるサルコイド反応を除外する
神経・筋病変を強く示唆する臨床所見
下記の表6に示す神経・筋病変を強く示唆する臨床所見を有する場合をいう。画像を含めた検査のみにおいてサルコイドーシスの神経・筋病変が示される無症候性のものと、症候性のものがある。診断に際しては以下の条項を使用してもよい。
Definite群: 神経・筋に組織所見が得られ、全身反応を示す検査所見6項目中2項目を満たすもの
Probable群: 神経・筋以外の他臓器に組織所見を認め、全身反応を示す検査所見6項目中2項目を満たすもの
Possible群: 全身反応を示す検査所見6項目中2項目を満たすが、いずれの臓器にも組織所見を確認できていないもの
表6
神経・筋所見
無症候性
症候性
中枢神経
実質内肉芽腫性病変
限局性腫瘤病変
びまん性散在性肉芽腫性病変
脊髄病変
髄膜病変
髄膜炎・髄膜脳炎
肥厚性肉芽腫性硬膜炎
水頭症
血管病変
血管炎(精神症状、錐体路症状、記銘力症状、痴呆など)
脳室周囲白質病変(精神症状、痴呆など)
静脈洞血栓症(偽性脳腫瘍など)
脳症
末梢神経
脳神経麻痺
顔面神経麻痺
舌咽・迷走神経障害
聴神経障害
視神経障害
三叉神経障害
嗅神経障害
その他の脳神経の障害
脊髄神経麻痺
多発性単神経炎
多発神経炎
単神経麻痺
その他の障害 ‐ 神経根障害、馬尾症候群など
筋
急性〜亜急性筋炎型
慢性ミオパチー
腫瘤型ミオパチー
除外診断
他の神経・筋疾患を十分に除外すること
その他の臓器病変を強く示唆する臨床所見
下記の表7に示すその他の臓器病変を強く示唆する臨床所見を有する場合をいう。画像検査でサルコイドーシスのその他の臓器病変が示される無症候性のものも含む。
表7
その他の臓器所見
肝病変 ‐ 肝表面の結節、肝多発性低吸収域
脾病変 ‐ 脾腫、脾機能亢進症、脾表面の結節、脾多発性低吸収域
腎病変 ‐ 高カルシウム血症、腎尿路結石、腎腫瘤
消化管病変 ‐ 潰瘍、粘膜肥厚、隆起などの透視、内視鏡所見
リンパ節病変 ‐ 表在性リンパ節腫大、腹腔内リンパ節腫大、縦隔リンパ節腫大
甲状腺病変 ‐ 甲状腺腫
耳下腺病変 ‐ 耳下腺腫大
上気道病変 ‐ 上気道腫瘤
骨病変 ‐ 骨梁減少、のう胞状骨透亮像
関節病変 ‐ 急性関節炎症状、慢性関節炎症状
生殖器病変 ‐ 生殖器腫瘤
その他病変 ‐ 骨髄病変、膵病変、胆道・胆嚢病変など
除外診断
原因既知あるいは別の病態、例えば結核、悪性リンパ腫、その他のリンパ増殖性疾患、原発性、転移性悪性腫瘍などを除外する
異物、癌などによるサルコイド反応を除外する
治療
治療には
ステロイド剤
(
副腎皮質ホルモン
)が使用される。
目であればステロイド剤入りの
点眼薬
が使われるが、重症であればステロイド剤の
内服
をする。
ステロイド剤は症状を改善させ、肉芽腫形成を抑制する。内服を半年程度継続するとかなりの治療効果が認められるが、薬の量を減らすと再発することもある。
心臓
や
脳
に肉芽腫が形成されることもあり、その場合には生命に危機が及ぶこともあるため、定期的な検査が必要である。
また、治療によって病状が軽快したとしても、原因不明であるために、治癒したと断言できないことから
難病
とされている。
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