Y染色体
読み:わい-せんしょくたい
外語:Y chromosome

 オスヘテロ型性決定に使われる性染色体の一つ。
目次

概要
 使われ方は、次の二種類が存在する。
 ヒトなどオスヘテロ型(XY型)の場合は、女は持たず、男は1本持っている。

特徴

大きさ
 人間のY染色体は、2006(平成18)年2月時点では、塩基数約5100万bp(約2550万ヌクレオチド)、遺伝子数255個とされている。
 なお、過去の研究では78個とされていた。X染色体と共通の遺伝子は7個だと言われている。
 Y染色体は、その大部分(長腕末端部)がランダムな繰り返し構造(特に回文配列)であり、含まれる実際の遺伝子は長さの割に少ない。
 常染色体で最短の21番染色体や22番染色体より少し大きい程度で、X染色体の1/3しかない。

遺伝子

主な遺伝子
 主な遺伝子や作られる蛋白質等の名称、およびその欠損による遺伝病等は次のとおり。

男を作る遺伝子
 この染色体内にある性決定遺伝子(短腕先端付近にあるSRYという遺伝子が有力)が、母体内にいる胎児のある時期に機能することで精巣(睾丸)が作られ、精巣から放出されるホルモンが最終的に雄(男)の体を作る。
 つまりY染色体には睾丸を形成する遺伝子があり、これにより、本来は雌(女)の体であるものを、雄(男)の体に作り直すわけである。
 もしこの遺伝子に異常があり、男性ホルモンが減少すれば、たとえY染色体を持っていても体は雌(女)となる。ほんの数十個の遺伝子が、雄(男)になることを支配しているのである。

主な遺伝病
 この染色体に関わる主な遺伝病と、原因は次のとおり。

性決定と例外
 哺乳類、およびナデシコ科の雌雄異株植物ヒロハノマンテマは、Y染色体上に存在する性決定遺伝子(ヒトの場合はSRY)によって、Y染色体を持つ個体が雄(男)へと分化する。ただし、Y染色体の存在は雌雄の分化を必ずしも意味しない。
 具体的には、ショウジョウバエ科の蝿やタデ科の雌雄異株植物スイバはXY染色体を持ってはいるが、しかしY染色体は性決定には殆ど関与していない。これらは常染色体とX染色体の比率によって性が決定されており、正常な雌雄はXXまたはXYになるがこの時にXXの場合は常染色体に対してXの比率が高まるため雌となり、XYの場合は常染色体に対してXの比率が低いため雄になる。

変異

由来と変異
 XY染色体のペアは、3億年ほど前に一対の常染色体から誕生したと考えられている。つまり、元々はX染色体=Y染色体だったことを意味し、性染色体に特化する前は普通の染色体だったが、性決定に関する遺伝子が成立したことによって互いに異なる性染色体へと分化をしたと考えられている。
 普通の染色体だった頃はXY間で互いにクロスオーバー(遺伝子情報の交換)をすることで有害な変異を取り除き、遺伝子プールを広く保つ機能を常染色体と同様に持っていた。しかし性染色体となってXY間でのクロスオーバーが原則行なわれなくなると、Y染色体は不要となる遺伝子を急速にそぎ落とすようになり、現在に至っているとされる。

日常の変異
 このY染色体は比較的頻繁に変異をしている。
 Y染色体はかつて、常染色体とは違い普段は減数分裂時の相互転座に参加しないとされ、よってY染色体は変異しづらい不活性なものだと考えられていた。現在では、減数分裂時にX染色体との間で相互転座を起こすこともあると考えられており、またY染色体自身の中で他の場所にあるDNAと入れ替えをしていることが明らかとなっている。
 ここから、Y染色体は比較的突然変異を起こしやすい染色体であると言える。この特徴はY染色体の突然変異を世代を重ねるうちに修復できる働きと見られるが、逆に男性不妊などの先天疾患を招くことにもなる。

変異に見る男女比
 ヒトの男女の出生率は男104:女100とされており、ほぼ1:1である。これはヒトの性決定システムがオスヘテロ型(XY型)であり、男の赤ん坊がXY型なのに対して女の赤ん坊はXX型の染色体を持つことによるものである。
 男の方が若干多い理由については、Y染色体はX染色体より小さく軽いためX染色体の精子よりY染色体の精子の方が速く泳げて早い者勝ちの受精合戦ではY染色体の精子の方が運動性で有利なため、ともされているが、他に、X染色体には多数の必要な遺伝子が存在していることも理由である。女の赤ん坊は2本のX染色体を持つため、もし片方に有害な変異があってももう片方で補えるが、男はX染色体を1本しか持たないためX染色体に有害な変異があってはならず、このため男の赤ん坊の死亡率は女の赤ん坊と比して4%高くなる、ということを意味している。

ヒロハノマンテマにおける逆位
 XY染色体は元は同じ染色体だったため、共通の遺伝子を持ち、共通領域が存在する。
 ナデシコ科の雌雄異株植物ヒロハノマンテマは、遺伝子研究によりX染色体とY染色体で共通領域を持つが共通部分以外はX染色体と比してY染色体は向きが完全に逆になっていることが判明した。つまり、この植物は進化の過程でY染色体はセントロメア部分を含めて巨大な逆位を発生させたことが伺える。なお、X染色体のセントロメアの位置については定かではない。

Y染色体絶滅説
 3億年の間に数百の遺伝子を失ったヒトのY染色体はいずれ消滅し、男性が絶滅するという仮設が存在する。しかし、様々な研究により、これを否定する結果も得られている。
 米ホワイトヘッド研究所の研究者らによる研究では、2,500万年前にヒトと共通の祖先から分化したアカゲザルとヒトでY染色体の比較をした。結果、アカゲザルは2,500万年にわたりY染色体の祖先遺伝子は一つも失っておらず、ヒトも失ったY染色体の祖先遺伝子は一つだけと判明したとする。
 この研究者らによれば、Y染色体の大量の遺伝子消失は早期に短期間で生じたもので、2,500万年で失われた遺伝子が1つだけということから、現在のヒトのY染色体は非常に安定していると考えられ、将来的にY染色体が消滅することはないと結論付けている。

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