宇宙の再電離
読み:うちゅうのさいでんり

 一度中性になった宇宙が、再び電離した現象のこと。
目次

概要

中性化
 宇宙は約137億年前、熱い火の玉として誕生したとされている。
 産まれたばかりの宇宙は灼熱であり、原子核電子はばらばらに存在していた。つまり、荷電粒子(イオン)に電離した状態であった。
 宇宙は膨張を続け、それに伴い温度が下がった。宇宙誕生から約30万年後、温度が約3千度まで下がったところで、陽子(=水素原子核)と電子は結合し、水素原子となり宇宙は中性化したと考えられている。

再電離
 水素は、現在の宇宙でも通常物質の大半を占めている。
 しかし現在、銀河間空間の水素は原子核と電子に電離されており、HII領域を作っていることがクエーサーなどの観測から明らかとなっている。
 これはつまり、一度中性化したはずの宇宙はどこかの時点で再び電離したことを意味しており、これを「宇宙の再電離」と呼んでいる。その原因は定かではなく今も大きな謎の一つとなっているが、最初に生まれた天体からの紫外線放射によって水素は再び電子と原子核に電離され、今に至るとする説がある。
 また再電離は、宇宙全体で一様に生じたのではなく、場所によって時期が異なると考えられている。このため、遠くのクエーサーを数多く観測し様々な方向で再電離の時期を決定する必要がある。この時期を解き明かすことは宇宙の歴史の理解に繋がるため、非常に重要となっている。

研究状況

再電離時期の推定
 宇宙に最初の銀河が生まれ、ここで明るい恒星が輝きだすと、その紫外線により周辺宇宙は暖められる。この影響で、宇宙空間に漂っていた中性水素原子は電離されたのではないか、とする説がある。
 宇宙背景放射のゆらぎの観測により、再電離は赤方偏移が6(ビッグバン後約9億5千万年)<z<14(ビッグバン後約3億年)の範囲内で起こったと考えられており、その時期を確認することは、宇宙の進化を解明する上で重要である。

クエーサー
 クエーサーの観測により、宇宙誕生後10億年以降は既に宇宙は電離していたことが分かっている。この頃から過去に至っては、電離度が急激に下がっていることが知られており、ちょうどこの頃に宇宙の再電離が進行していたと考えられている。
 しかし宇宙誕生後10億年以前となると、クエーサーを用いた観測ができないため、正確な測定ができないという課題があった。

γ線バースト

宇宙誕生後9億年
 2005(平成17)年9月4日に発生したγ線バースト「GRB 050904」は、赤方偏移量z=6.295であった。約128億光年の距離があり、つまり宇宙誕生後9億年と、観測史上最も遠く、しかも宇宙誕生後10億年の壁を破った初めてのγ線バーストだった。
 このγ線バーストの光学スペクトルをすばる望遠鏡で観測し、距離を正確に求めたのは、東京工業大学の河合誠之教授を中心とする研究グループの成果である。

吸収線
 測定には、ライマンα線と呼ばれる、波長121.6nmの光の吸収を用いた。この波長は紫外線であるが、距離が約128億光年あるため波長は約7.3倍に伸びて観測され(赤方偏移)、地球では約890.0nmと、赤外線に近い波長で観測される。
 γ線バーストの光自体は広い波長域を持っているが、途中の宇宙空間で吸収を受けるため、スペクトル線には吸収線が現われる。物質により吸収される波長は決まっているが、その場所(γ線バーストの近くか、地球の近くか)により、赤方偏移の影響によって異なる波長で観測される。これを調査することになる。
 例えば、地球の近くに中性の水素原子があり、そこで吸収を受けると、赤方偏移の影響は少ないため波長121.6nmで観測される。一方、γ線バーストの近くに中性の水素原子があれば、その吸収の痕跡は赤方偏移を受け、地球では波長890.0nm付近で観測されるわけである。

観測結果
 詳細なデータ解析を実施したのは、京都大学の戸谷友則助教授を中心とした研究グループである。
 その結果、宇宙誕生後9億年で宇宙は既に電離していることが突き止められた。この時点で既に、中性水素の割合は17%以下である可能性が高い、とされた。従って、宇宙の再電離の開始時期は、これよりも更に前ということになる。
 この結果は、原始銀河や第一世代の恒星(種族III)の形成は、当初の予想よりもかなり早くから激しく行なわれていたことを示唆している。

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