沃素131
読み:ようそ-ひゃくさんじゅういち
外語:131 I

 沃素(ヨウ素)の同位体の一つで、放射性沃素の一つ。ウラン核分裂生成物の一つである。「ヨウ素131」とも。
目次

情報

概要
 天然には存在しない同位体である。
 核燃料として使われるウラン235核分裂すると、沃素131が生じることがある。この時は、片割れとしてバランス的にテクネチウム99などが作られ、残りは中性子として放たれるだろう。
 半減期は8.0207日で、β崩壊崩壊)し、電子(β粒子)と反電子ニュートリノ( ̄(ν)e)を放出して、キセノンの安定核種であるキセノン131(131Xe)になる。
 ただし、半減期8日というのは、沃素131が8日で確実にキセノン131になるという意味ではなく、なっている確率が50%、という意味である。あくまで確率の話なので、1秒後に壊れるものもあれば、1年経っても壊れないものもある。

特徴

放射能
 放射性同位体であるため、放射線を放っている。
 半減期がわずか8日と非常に短い。このような沃素の同位体は概ね、RI検査の一つであるシンチグラフィなどの医療機器に使われている。
 特に沃素131は画像診断法の一つである単一光子放射断層撮影(SPECT)で使われており、沃素131が出すγ線を使って腫瘍などの撮影をしている。

毒性
 毒性自体は、安定同位体の沃素127と同じ。沃素の単体は、毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている。
 沃素131は、日常では原子力発電所の事故などで放たれることが多い。
 チェルノブイリ原子力発電所事故では周辺住民に甲状腺がんが多発したが、これは大量に放出された沃素131が甲状腺に蓄積したため、とする説がある。そこで、放射能汚染が発生した場合には、あらかじめ放射性ではない沃素を沃素剤として大量に摂取することで甲状腺を沃素で充満させ、新たに沃素131を取り込みにくいようにする、という手法がとられる。実際の効果は不明。

検出と出所
 福島第一原子力発電所(福一)の事故では、原子炉から放出された沃素131が検出され話題となったが、人体への影響は全くなかった。
 一部に「事故から数年経過した今もなお下水汚泥から半減期8日の核反応生成物であるヨウ素131が検出される」などとして講演を開き講演料を稼ぐ者が見られるが、下水の沃素131は医療用のものであり、テルル130に中性子照射をして作られたものである。原子力発電所の再稼動や、再臨界、福一事故などとは一切無関係である。お金を払って根拠のない不安を買う行為である。
 例えば甲状腺の検査をする時、あえて放射性沃素を投与してガンマカメラで確認する。こうすることで甲状腺の形が浮かび上がり、肥大がないか、腫瘍がないかなどが分かる。その後、検査した人より影響のないレベルの放射性沃素が排泄されることになるのである。
 「公益財団法人日本アイソトープ協会のアイソトープ等流通統計2015」によると、ヨウ素131は、2010(平成22)年度から5年間で、in vivo(生体内)放射性医薬品として次の量が供給されている。
 毎年13〜15テラベクレル(13〜15兆ベクレル)程度が使われ続けている。こういった医療用途の存在を無視して原子力発電に結びつけようとするような荒唐無稽な論には耳を貸すべきではない。

生体への影響

換算
 科学技術庁告示第五号 平成十二年科学技術庁告示第五号(放射線を放出する同位元素の数量等)における、沃素131の実効線量係数(ミリシーベルト/ベクレル)は、次のとおりである。
 つまり10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は0.22ミリシーベルト(220マイクロシーベルト)である。
 日本では、原子力安全委員会が2000(平成12)年に定めた指標では沃素131は飲料水の基準値として300ベクレル/kgとする。また食品衛生法 第六条二に基づいて厚生労働省が定めた乳児向け飲用基準の暫定規制値(原典を見つけることができないが、報道によれば)100ベクレル/kg、である。
 IAEAの資料Criteria for Use in Preparedness and Response for a Nuclear or Radiological Emergency(原子力又は放射線緊急事態のための準備と対応で使用するための基準)のページ43によれば、沃素131における、食品、ミルク、水を摂ってはいけない国際基準は3000ベクレル/kgである。つまり日本の基準はこの10倍厳しい。
 またWHOも、Japan earthquake and tsunami Situation Report No. 13(日本の地震と津波 状況報告第13号)のページ13に、日本の基準は国際基準より一桁低い(厳しい)、と記載されている。

食べたとき
 300ベクレルは、経口摂取で6.6マイクロシーベルトとなるが、実害を認めることが難しい微量な線量である。一日に2リットル飲むとして、これを2kgとすると、倍の13.2マイクロシーベルト/日。1年で約4.8ミリシーベルト被曝することになる。
 さて、日本にいれば年間約1.5ミリシーベルトの自然放射線を浴びている。その約3倍に過ぎない。甲状腺がんの発がんリスクは50ミリシーベルトとされているため、数ミリシーベルト程度の微量な線量でがんになることはない。これは、10倍の国際標準でも同じである。しかも、この線量を一度に浴びるのではなく毎日微量に浴びることになるので、その影響はほぼ無視できる水準である。

実例
 例えば、ほうれん草1kgあたり200ベクレルだったとすると、経口摂取で4.4マイクロシーベルトとなる。この時点でももはや影響は皆無だが、ほうれん草には蓚酸という毒が含まれており、本当に一人でほうれん草を1kgも食べてしまうと、カルシウムの吸収阻害を招く他に、蓚酸が原因で腎臓結石を患う恐れが高いため危険である。たかだか200ベクレルの沃素131と蓚酸なら、蓚酸の方がリスクが高いと判断できる。
 そして、一人前を60g(60/1000)とするなら、一食0.264マイクロシーベルト(264ナノシーベルト)となる。完全に誤差の世界である。人間は毎日、この数倍の自然放射線を浴びて生活している。
 さらに、沃素131がついた食品の安全性を証明する理屈が存在する。

沃素131で汚染された食品

福島第一原電の場合
 甲状腺がん、という話だけが一人歩きし、沃素131で汚染された食品がさも危険であるかのようにして忌避される傾向にもある。しかし、それは心配に及ばない。
 例えば2011(平成23)年3月20日、茨城、福島で、牛乳から932〜1190Bq/kg、ほうれん草で6100〜15020Bq/kgの放射性沃素が検出されたとNHKで報じられ、これ以降、何の問題もない茨城、福島産の製品の返品、キャンセル、不買などが行なわれるようになった。いつものことである。
 その上、官房長官も「一年間食べ続けてもCT一回分より低い被曝量なので安全」といった趣旨で国民に「安全」を呼びかけた。国民を安心させようとする官房長官の気持ち自体は国民の多くが受け取ったが、残念ながら彼の話は根本的に間違っていた。
 結局、国民は安心しないばかりか、無関係のものまで不買をし、日本の経済に大きな損失をもたらしたのである。こうして発生した損失は、原則として国民の払う税金でまかなわれる。

牛乳やほうれん草は無害、安全
 そもそも、放射能というものは、半減期を過ぎると急激に弱まる。
 まず、牛乳や野菜というものは、搾乳・収穫された日に売られる訳ではない。搾乳・収穫されてから、牛乳なら数日、野菜も4〜5日程度はかかるのである。
 さてこの前提で、沃素131の半減期を考えると、8.0207日しかない。ではこの沃素がどこから出てきたかと言えば、むろん原子炉である。それも、原子炉を運転したことによって生じた副産物である。原子炉が止まっていたら、それ以上の沃素131が作られることはない。
 さらに、牛乳や野菜類から、半減期が長くリスクが高いセシウム134セシウム137は、基準値を越えてはいるものの微量しか検出されていない。これは、それらの物質は原子炉内ではあまり気化せず(セシウムの沸点は671℃で、通常運転中の原子炉内温度は400℃前後と沸点より低かったため殆ど気化しなかった)、原子炉内に殆どが留まっていると見込まれる。
 つまり、地震発生=原子炉の停止日から起算すると、沃素131の半減期はとうに過ぎている。沃素131由来の放射線は殆どないか、沃素131そのものが無害で放射線も放たない安定同位体キセノン131に変わっているのである。したがって、消費者の口に入る頃には原子炉由来の沃素131の危険性は全くなくなっている。

官房長官発言の問題点
 上とほぼ同様の内容で、苫米地英人が著しガジェット通信に寄稿された「茨城・福島の牛乳 ほうれん草は無害だ」ヨウ素131の半減期は既に過ぎている - ガジェット通信という記事がある。
 氏の原稿を意訳すれば、次のとおりである。
 セシウムも沃素も、気流や雨などの関係で一時的に高濃度が検出されたりしているが、沃素については遠からず放射線レベルは下がっていくと見込まれる(これ以上、原子炉内に大量にあるものが放出されない場合)。

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