イベルメクチン
読み:いべるめくちん
外語:Ivermectin

 駆虫活性および殺虫活性を有し、腸管糞線虫症、疥癬、毛包虫症などの治療に使われる駆虫剤の成分の一つ。16員環ラクトン(マクロライド)化合物の一群で、アベルメクチンに属する。
目次

概要
 経口で服用するか皮膚に塗布して使用する、寄生虫症の治療薬である。
 動物にも使われるが、ヒトの場合は主にシラミ感染症、ダニの皮膚感染症(疥癬)の治療に使われており、標的となる寄生虫を殺虫することで症状を緩和する。
 ほとんどの疥癬の場合、生きているダニは一回の投与で殺虫できるが、卵は死なない。そこで翌週、卵から孵化したところで再投与し、これも殺虫することで治療となる。重度の疥癬の場合、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、他剤と併用しつつ1ヶ月間に最大7回を投与する、としている。
 武漢肺炎ウイルス感染症(WHO名はCOVID-19)パンデミック以降、イベルメクチンが治療や予防に有効だとする誤った情報が広まった。しかしこれは信頼できる科学的根拠による裏付けがなく、そもそもメーカーであるMSD製薬自身も公式声明で効果を否定している(詳細後述)。

情報

基本情報
 主要成分をH2B1a(イベルメクチンB1a)、そうでない方をH2B1b(イベルメクチンB1b)という。

安全性

危険性

有害性

誘導体、関連物質の例
 (該当資料なし)

特徴

薬効薬理
 主要な用途は次のとおり。
 その他、畜産あるいはペット動物の各種寄生虫感染症にも有効である。
 武漢肺炎ウイルス感染症(WHO名はCOVID-19)に関する海外研究チームの論文は、疑義により取り下げられている。

作用機序
 線虫(線形動物)やダニなど、無脊椎動物の神経細胞や筋細胞に存在するグルタミン酸作動性Cl(GluCl)チャネルの膜貫通領域に結合することで、チャネルを活性化させる。
 これにより神経細胞や筋細胞に過分極を生じさせ、麻痺させることで、寄生虫を死に至らしめる。

代謝・排泄
 に殆ど溶けないため、尿からの排泄も殆どない。
 外国でのデータによると、イベルメクチンは肝臓で代謝され、イベルメクチンおよびその代謝物は約12日間掛けほぼ全てが糞中に排泄されたとしている。

用法、用量
 腸管糞線虫症では、通常イベルメクチンとして体重1kg当たり約200μgを、2週間あけて2回投与する。
 疥癬では、通常イベルメクチンとして体重1kg当たり約200μgを1回投与する。
 なお、200μgは0.2mgであるので、体重65kgで13mgを使用することになり、これを超えない程度の近い量の錠剤を飲むことになる。
 以下、体重(kg)ごとの3mg錠の錠数(参考値)。

禁忌
 基本的な禁忌は次の通り。
 妊娠中の使用が安全かどうかは不明である。母乳中には低濃度だが分泌される。

副作用など
 大量投与した場合の神経毒性がある。また一定の割合で肝障害を生じ、死亡例もある。イベルメクチンの毒性については独立行政法人 医薬品医療機器総合機構が資料を公開している

規制区分

製品例

武漢肺炎への効果について

結論
 最初に結論を述べると、イベルメクチンは安全量の範囲内では、武漢肺炎ウイルス感染症(いわゆる新型コロナ)に効果がない。
 つまり、イベルメクチンは武漢肺炎ウイルス感染症の特効薬ではない。

研究

in vitro(試験管内)研究
 オーストラリアのCalyら(2020)はin vitro(試験管内)研究でSARS-CoV-2を感染させたVero/hSLAM細胞を5μMのイベルメクチンに48時間暴露したところ、コントロール(対照)と比較してウイルスRNAが5000分の一に減少した。IC50濃度は2μM程度としている(5μMなどのMは相対モル濃度の単位)。
 この結果を見れば、イベルメクチンにはSARS-CoV-2の複製を阻害する働きがあり、イベルメクチンによる処理で48時間以内にウイルスをほぼ死活させられる、と読み取ることができる。
 しかし幾つかの問題がある。一つは、IC50濃度が2μM程度というその量である。イベルメクチン(B1a成分90%以上、B1b成分10%未満)の分子量が873.75であることから、ヒトの血中濃度が約1,750ng/mLに達しなければ抗ウイルス活性は発揮されない。これは通常の投与量(体重1kg当たり約200μg)で得られる最高血中濃度(空腹時投与で約50ng/mL、食後投与で約130ng/mL)と比較すると、その濃度を得るためには疥癬での常用量の15〜30倍の投与が必要になることが分かる。
 もう一つは、これがin vitro(試験管内)での研究ということである。in vitro(試験管内)でよければイベルメクチンは抗ウイルス効果は示せるが、それなら漂白剤でも熱湯でも同様である。しかし生体内において安全にウイルス量を減少させなければ、有効性が確認できたとは言えない。そこで各所で治験が行なわれた。

治験
 論文High-dose ivermectin for early treatment of COVID-19 (COVER study): a randomised, double-blind, multicentre, phase II, dose-finding, proof-of-concept clinical trial(COVID-19の早期治療のための高用量イベルメクチン(カバー研究):無作為、二重盲検、多施設、第II相、用量設定、概念実証臨床試験)とする、イタリア第II相治験の論文がある。
 結果としては、軽症コロナ患者に対するイベルメクチンの600μg/kgまたは1200μg/kgの5日間投与は、しかしプラセボと比較してウイルス量を減少させなかった、としている(参考までに、疥癬での常用量は200μg/kgなので、それぞれ3倍、6倍の高用量となる)。
 論文の「4. Discussion」(4.議論)にこうある。
 この試験で、イベルメクチンの高用量投与は安全だとみなせることが確認された。しかし軽度から中等度の副作用ではあるものの高用量投与群では脱落者の割合が高いことが確認された。
 病気の進行リスクが高い症状であれば、軽度の副作用があっても治療を継続するモチベーションは高いかもしれない。しかしイベルメクチンの高用量投与に関する新たな試験は他の点からも問題がある。
 まず第一に、臨床的に良い結果が得られる可能性の兆候は見出せなかったこと。それどころか、入院が必要になるほど病状が悪化した4人の参加者は全て治療群であり、うち3人は高用量群だった。
 これは統計学的に有効な結論ではなく観察結果ではあるが、イベルメクチン自体が、臨床的悪化に少なくとも部分的に寄与していた可能性が疑われる。
 実のところ、イベルメクチンの作用機序はウイルスに直接作用するのではなく細胞内輸送に関与する宿主タンパク質の阻害であるため、懸念がある[22]。
 ただ今回の入院患者の臨床的特徴はCOVID-19の進化と適合すると考えられ、以前にイベルメクチンの重篤な毒性として報告されたような大きな神経症状は観察されなかった[23]。
 途中を略して、最後にはこうある。
 結論として、イベルメクチンとプラセボの間では、最高用量での傾向は一目瞭然だがウイルス量の有意な減少は証明されなかった。
 この薬剤が低用量で臨床効果を発揮する可能性があるかどうか、これはまだ議論の余地はある。我々の調査結果は、臨床試験以外ではCOVID-19の治療にイベルメクチンを投与することは控えよとするWHOの勧告[25]をさらに裏付けるものだと考える。忍容性の低下を考慮すると、大規模な高用量臨床試験は推奨されるべきでない。

MSD製薬からの公式発表
 イベルメクチンの製品「ストロメクトール」のメーカーの日本法人、MSD株式会社は2021(令和3)年4月2日に新型コロナウイルス感染症流行下におけるイベルメクチンの使用に関するMerck & Co., Inc., Kenilworth, N.J., U.S.A.のステートメントを発表し、武漢肺炎ウイルス感染症への使用を否定している。
 イベルメクチンも副作用がある医薬品である。サプリメントではないので、添付文書にある用法用量および適応症以外への使用は、安全性および有効性を示すデータがなく危険である。

状況

効果はない
 いつの頃からか「イベルメクチンが武漢肺炎ウイルス感染症に効く」というデマ(虚報)が世界を駆け巡り、これを真に受ける人が増えた。
 タイのように、実際に支那製ワクチンとイベルメクチンを併用するような事例も見られるが、結果として全く効果がなかった。インドでも大量に使われたが、しかしインド型変異株(WHO名 デルタ(δ)株)の蔓延を見てのとおり、全く効果がなかった。
 しかも、上述のようにMSDが声明を発表した後でイベルメクチン有効性の最大の根拠となっていた論文に捏造が発覚して撤回され、更に1300人の大規模試験で有効性が認められないというデータが出たことで、イベルメクチンの有効性はほぼ期待できないものとなっている。

アメリカの状況
 アメリカでも人間用のイベルメクチン製剤は市販されていない。しかし動物用は市販されており、売上が従来の24倍増となっていると報じられている。
 かくして、イベルメクチンを接種した人が体調を崩す人が続出、この対応で救急車は足りなくなり、そしてイベルメクチン中毒患者で救急処置室がいっぱいになり銃で撃たれた人々が治療を受けられない事態に陥っているという。
 この惨状から、食品医薬品局(FDA)は警告を発信、米疾病対策センター(CDC)も声明を発表、2021(令和3)年9月1日には米国医師会(AMA)、全米薬剤師協会(APhA)と全米薬剤師健康協会(ASHP)が共同で声明を発表するなどの事態となっている。FDAによれば、イベルメクチンを人が服用した場合の副作用として、吐き気や嘔吐、下痢、血圧低下、発作、めまいや昏睡状態などがあり、最悪の場合は死に至るとしている。

薬不足
 デマに騙されイベルメクチンが使われたせいで品不足が起こり、本来の用途である疥癬の治療薬として入手が困難になりつつある。
 イベルメクチンの原材料は支那からの輸入に頼っており、しかも元々大量に使われるような薬でもないため量産もできないためである。

イベルメクチンは市販されていないので
 イベルメクチンは駆虫剤の成分であり、これを含む医薬品製品(ストロメクトールなど)は処方箋医薬品である。つまり、疥癬などを患った時に、医師の処方箋によって調剤薬局で購入するものである。ドラッグストアで売られているようなものではない。
 代わりに?、同様に疥癬の治療に使う薬、スミスリンが薬局で売れているという。もちろんスミスリンも武漢肺炎ウイルス感染症には効果がないが、それ以前に、これは「塗り薬」である。間違っても飲まないように。
 更に、今度は「ぎょう虫駆除剤」であるパモキサンが効くなるデマが流布されているという。これは第2類医薬品なのでドラッグストアで購入できるが、これは武漢肺炎ウイルス感染症には絶対に効かない。なぜならこれは腸管内の寄生虫を駆除する薬なので腸から吸収されないように作られており、ゆえに血中には殆ど移行しない。このため消化管内で効果が発揮されるのである。血中に移行しない薬は、どうやっても気管支から肺を傷害するコロナウイルスに働きかけることはできない。

イベルメクチン推進派の問題点
 イベルメクチン推進派と反ワクチンは概ね一致する。
 彼らの一番の問題点は、ワクチンの副反応(かどうかすら分からないもの)に過剰に反応するのに対して、イベルメクチンの副作用には一切頓着しないことである。ファイザーおよびモデルナのmRNAワクチンは今のところ(筋肉注射およびワクチン一般と比較して)重大な副反応は発見されていないが、イベルメクチンは肝機能障害が発生するなど危険な副作用が既に知られている。イベルメクチンは、肝機能や腎機能障害のリスクがある中で、それでも疥癬という強烈なかゆみを生じさせる病気の治療効果と天秤にかけて、治療効果を選択する薬剤である。そのような危険な薬に対してさらに、無害、副作用の心配がない、安全などとデマを飛ばす者さえもいる。
 二番目の問題は、mRNAワクチンは治験完了しているにもかかわらず治験中だと信じ込んでいながら、添付文書では「駆虫剤」でしかないイベルメクチンの武漢肺炎ウイルス感染症への治験は全く進んでいないことが分かっていないことである。

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