cell computing
読み:セル-コンピューティング
外語:cell computing

 日本で行なわれた、日本初の分散コンピューティング計画。グリッドコンピューティング実験の一つ。
目次

概要
 現在、コンピューターの性能は大きく向上し、通常の運用では能力があり余る状態となっている。その一方で、コンピューターの性能をより多く必要としている人がいる。
 そこで世界中で分散コンピューティングが実験されている。パーソナルコンピューターの所有者一般が登録すれば、そのコンピューターの余剰計算能力を提供することができる。この技術実証のために、株式会社NTTデータによりサービスが提供されたものがcell computingである。
 将来的には計算能力の販売を目指し、その準備段階としてインターネット実証実験を実施した。
 しかし、今後ビジネス化可能な見通しが無いこと、PCグリッドを用いたインターネット上での分散コンピューティングプロジェクトが普及しつつあること等から研究としての役割を終えた、として2008(平成20)年3月31日をもって「cell computing βirth」プロジェクトの終了が宣言されている。

大規模実証実験

実験概要
 cell computingは、2002(平成14)年12月20日〜2003(平成15)年3月20日までの132日間、初の大規模実証実験が実施された。
 実験の参加台数12,206台、トータルCPU時間は611年162日13時間24分23秒で、最大時性能は3T flops超(実測数値)を記録した。

プロジェクト
 初の大規模実証実験では、二つのプロジェクトが試験的に行なわれた。
 一つは「遺伝子病治療研究プロジェクト」、もう一つは「光マイクロプロセッサープラットフォーム実現プロジェクト」である。

遺伝子病治療研究
 遺伝子病治療研究プロジェクト、BOLERO(Bio Odyssey of Lateen Explorer for Repeated Objects)は、ヒトゲノムの解析を実施した。
 担当企業は東亞合成株式会社、後援は名城大学総合数理教育センターで、この解析によりクロイツフェルト・ヤコブ病や2型糖尿病(日本人に多い糖尿病)に利く新薬が出来る可能性がある。実験では20番、21番、22番、13番、14番染色体までの解析が行なわれた。

光マイクロプロセッサー
 光マイクロプロセッサープラットフォーム実現プロジェクト、OPAL(Optical Property AnaLyzer (of photonic crystals))では、現在のパソコンより1000倍も早いパソコン(光コンピューター)や光ルーターなどを実現させるための研究である。
 担当企業は日本電信電話株式会社 NTT物性科学基礎研究所である。
 全ての方向からの光の進入を禁止される帯域(ハンドギャップ)の大きいフォトニック結晶構造の候補を探した。最終的に116個の結晶構造を見つけることができた。

cell computing βirth

実験一覧
 2005(平成17)年から2008(平成20)年3月31日まで行なわれた実証実験が「cell computing βirth」である。
 参加順に、次のプロジェクトが実行された。

BOLERO+
 ヒト、マウス、植物、ハエ、メダカのDNAおよびDefensin領域を解析し、自然免疫の主成分、抗菌性ペプチド(ゲノムスーパーパワー)の進化の謎を解明を目指した。
 これにより人類は、全く新しい革新的な抗生物質を生み出すことができるかもしれない、とした。

CHRONOS
 ヒトゲノムは24本の染色体からなるが、その並びの本質は未解明である。
 そこで、ヒトDNAを解析することでヒトゲノム染色体間の法則性を見出し、がんや糖尿病その他、遺伝子が関わる疾病の解明と予防を目指す。

elecle@cellcomputing
 TVアニメーション「エレクルnico」のショートムービー製作を行なう。
 CGアニメのうち、レンダリングと呼ばれる作業を実施した。

PROSURFER
 ヒトの蛋白質表面領域を解析し、分子表面同士の類似性を網羅的に探索するプロジェクト。
 医薬品は一般に、体内の蛋白質に結合して働きを調整することを意図して作られている。延いては、たまたま似た表面を持った蛋白質があると、その蛋白質にも同時に作用してしまう「副作用」が発生する。
 そこで、多数の蛋白質を探索し、既存の医薬品の作用・副作用のメカニズムの解明と、安全な新薬開発に貢献することを目指す。

SPRING
 花粉飛散経路探索プロジェクト。
 関東圏の杉植生情報、気象情報、地形情報を解析することで、杉花粉の発生源と飛散場所の解明に挑む。
 発生源別の各地点への花粉飛散量の寄与度、影響の強い発生源、経路の探索などの解明に貢献する。

sekigahara
 関ヶ原の合戦映像のシーンファイルを元に、超高精細度のCG映像を制作する実証実験。

HD-Animation
 デジタルハイビジョンアニメーションの製作。物語の舞台となる、重厚で幻想的な洋館の3D映像の製作に挑戦。
 約30秒のFull-HD(1920×1080p, 30fps)作品のパイロット版の製作と一般公開を目指す。

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