真空
読み:しんくう
外語:vacuum

 古典物理学においては、何も存在しない空間のこと。真空の概念は古典物理学と量子論で用いられるが、その意味合いは双方で大きく異なる。
目次

定義

古典物理学
 古典物理学(マクロ的視点)においては、「何も存在しない空間」を真空という。ただし現実的な側面から、次のいずれかの意味で使われることが多い。

量子論
 宇宙空間のように、マクロな世界観では殆ど何も無い真空に近い世界でも、ミクロの世界つまり物理学の量子論の世界ではそうではなく、空間には素粒子が満ちあふれている。
 従って、仮にマクロな世界観では完全な真空を作ったとしても、ミクロの世界では満ちあふれた素粒子によって対生成対消滅が起きている。
 量子論の世界では、このような何も無いはずの原子の周辺や内部であっても突如として電子光子が飛び出すため、マクロ的な意味合いで「何もない」状態にはならない。

日本工業規格
 日本工業規格は、真空を用いた工業製品を作るための規格 JIS Z 8126-1 (真空技術-用語-第1部:一般用語)で、真空という用語を定義している。工業製品では、この定義を使うことが多い。
 大気圧より低い圧力の気体で満たされている特定の空間の状態
 つまり、日常の大気圧(1気圧)よりも低い圧力で密閉された空間があれば、それは工業規格的には「真空」の定義に当てはまることになる。
 古典物理学における陰圧(負圧)の概念に近い。

マクロな世界

由来
 真空は、紀元前の古代ギリシャ時代、デモクリトスが原子論を唱えたときに原子間の空間の概念のために導入したのが始まりである。
 この概念を初めて裏付けしたのは何と2000年も後の世、17世紀のトリチェリであり、水銀柱実験によってガラス管に真空を作り出した。尤も、この真空は実際には低濃度の水銀蒸気が存在するので、やはり何も無い空間というわけではない。

真空度
 マクロ的には、布団や食品の真空パックのようなあまり真空度が高くない真空から、真空管、宇宙空間のように真空度の高い真空まで様々ある。
 理想的な真空を作ることが仮に出来たなら、その空間は気圧が0となる。しかし人為的に完全な真空は作ることは出来ないため、人為的な真空は僅かに気圧が存在する。
 一般に真空と言われる宇宙空間にも僅かだが星間物質が存在している。
 つまり真空と呼ばれてはいても、僅かには物質が存在する。本当の意味での真空ではないが、このような空気が著しく薄い空間を一般に真空と呼んでいる。

高真空
 現在人間が人為的に生み出せる最高の真空は1000兆分の1気圧(10−11Pa)程度である。
 これは1cm2の空間に分子が1万個程度存在する状態だが、頑張っても、もう一桁程度良くなる程度である。なお、素粒子実験などでは少なくとも1兆分の1気圧(10−7Pa)以下が必要とされる。
 このような高濃度な真空はポンプによって常に排気することで実現されるが、これを続けても実は完全な真空にはならない。なぜなら、容器の壁には様々な分子が混入しており、どんなに分子を排気して取り除いても、次から次へと容器の壁から気体分子が染み出してくるからである。人為的な真空に限界があるのはこのためである。

宇宙
 宇宙空間では、星と星の間の一見何もなさそうな空間であっても、1cm3あたり1個程度の原子(おもに水素)が存在するとされる。
 こういった恒星間にある希薄な物質を総じて星間物質という。

素粒子理論
 現在の素粒子物理学や量子論においては、真空は空っぽであるどころか、逆に非常に激しく変動する賑やかなものであると考えられている。
 素粒子理論においては、空間は「場」(ば)によって満たされているとし、素粒子は「場」の振動で表現される。場が大きく揺れればエネルギーが多く存在し、素粒子も多数作られる。エネルギーが少なければ場の振動もなくなり、素粒子も少なくなる。結果として、場の振動が収まった状態が「真空」であると言える。

宇宙理論
 宇宙は、真空のエネルギーが引き金となってビッグバンを引き起こし誕生したと考えられている。
 その宇宙も現在では加速しながら膨張していることが確認され、それを加速させている正体不明のエネルギーはダークエネルギーと呼ばれる。ダークエネルギーの正体は諸説提案されており、現在もなお謎であるが、一説では真空のエネルギーだともされる。
 また、粒子に質量を与える役割を担うとされる「ヒッグス粒子」は真空の中に隠れているとも考えられている。この粒子は理論上存在が予測されているが、現在はまだ見つかっていない。
 真空は現代科学においては研究の最前線の一つであり、非常に奥深いものである。魔法瓶の真空も、突き詰めて考えると壮大な宇宙理論にまで行き着くことになる。

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