アミノ酸
読み:あみの-さん
外語:amino acid

 広義にはアミノ基カルボキシル基の双方の官能基を持つ有機物の総称であり、狭義にはこの中でも特に蛋白質の構成要素となるもの。蛋白質構成要素の条件を満たせば、プロリンのように本来ならイミノ酸であっても便宜上アミノ酸として分類される。
目次

概要
 自然界には500種類程度のアミノ酸が見つかっている。これは地球上のみならず、飛来した隕石などからも検出されている(詳細後述)ことから、宇宙全体に普遍的に存在する物質であると考えられる。
 多数あるアミノ酸のうち生体の蛋白質を構成するアミノ酸は全22種類が知られており、このうち真核生物は21種類を用い、うちヒトは20種類を用いる。
 またアミノ酸には、その生物が体内で作れるものと、作れないものがある。作れないものは外部から食事によって得る必要があるが、このように体内で生成できないアミノ酸をその種にとっての必須アミノ酸という。何が生成できないかは種ごとに差があるが、ヒトの場合は9種類であり、食事から摂取しない限りは欠乏症を来し、死に至る。

特徴

分類
 アミノ酸が幾つか繋がったものをポリペプチドといい、多く繋がったものを蛋白質という。
 旨味成分の元である。また三大栄養素の一つに蛋白質があるが、これは実質的にアミノ酸と等価である。
 次のような分類がある。

基本構造
 1分子中に「酸の部分」と「塩基の部分」を持っている。
 具体的にはアミノ基(酸の部分)とカルボキシル基(塩基の部分)が炭素で繋がったものを基本構造とし、ここに結合するものによってアミノ酸の種類が決まる。つまり、理論上アミノ酸は無限に存在しうるが、ヒトの生体を作る蛋白質を構成するアミノ酸は20種類である。
 
 グリシンなどを除く多くのアミノ酸は、一つの炭素に四つの異なる基(通常は、アミノ基カルボキシル基水素、およびRで示される各アミノ酸固有の基)が結合するため、L体(左手型)とD体(右手型)の光学異性体が生じる。

蛋白質を構成するアミノ酸

コドン
 生物の遺伝情報DNAは、4種類の塩基(アデニングアニンシトシンチミン)を3個一組としてコドンという単位を作る。
 このコドンを遺伝コードとして使い、各コドンにアミノ酸を割り当てる。3個が1ペアとなる遺伝暗号であるので、これを俗に「トリプレット暗号」などとも呼ぶ。
 細胞内では遺伝情報の配列(順番)通りにアミノ酸を次々と繋げ、目的とするペプチドまたは蛋白質を作っている。コドンは4種類が3個一組であるため4×4×4=64となり理論上は64種類のアミノ酸を割り当てることが可能だが、ヒトの場合はこれに20種類のアミノ酸を対応させており、このため一つのアミノ酸は複数のコドンに対応している。64種類のうち61種類はアミノ酸に対応するが、3つはどのアミノ酸にも対応せず、ペプチド鎖(アミノ鎖)合成の終了地点を表わす終止コドンとして機能する。
 なお、ここで繋げるための材料となるアミノ酸は別途用意することになるが、ヒトは20種類のアミノ酸のうち9種類を作ることができず、これは食品として得なければならない。

20種類の一覧
アスパラギン(Asn)アスパラギン酸(Asp)アラニン(Ala)
アルギニン(Arg)イソロイシン(Ile)グリシン(Gly)
グルタミン(Gln)グルタミン酸(Glu)システイン(Cys)
スレオニン(Thr)セリン(Ser)チロシン(Tyr)
トリプトファン(Trp)バリン(Val)ヒスチジン(His)
フェニルアラニン(Phe)プロリン(Pro)メチオニン(Met)
リジン(Lys)ロイシン(Leu) 
 

分類

中性アミノ酸
名称英語名記号対応コドン構造
アラニンalanineAlaAGCU GCC GCA GCGCH3CH(NH2)COOH
アスパラギンasparagineAsnNAAU AACNH2COCH2CH(NH2)COOH
システインcysteineCysCUGU UGCHSCH2CH(NH2)COOH
グルタミンglutamineGlnQCAA CAGNH2CO(CH2)2CH(NH2)COOH
グリシンglycineGlyGGGU GGC GGA GGGNH2CH2COOH
イソロイシンisoleucineIleIAUU AUC AUAC2H5CH(CH3)CH(NH2)COOH
ロイシンleucineLeuLUUA UUG CUU CUC CUA CUG(CH3)2CHCH2CH(NH2)COOH
メチオニンmethionineMetMAUGCH3S(CH2)2CH(NH2)COOH
フェニルアラニンphenylalaninePheFUUU UUCC6H5‐CH2CH(NH2)COOH
プロリンprolineProPCCU CCC CCA CCG2‐pyrolidyl‐COOH
セリンserineSerSUCU UCC UCA UCG AGU AGCHOCH2CH(NH2)COOH
スレオニンthreonineThrTACU ACC ACA ACGCH3CH(OH)CH(NH2)COOH
トリプトファンtryptophanTrpWUGGHOOCCH(NH2)CH2‐3‐indol
チロシンtyrosineTyrYUAU UACHO‐pC6H4‐CH2CH(NH2)COOH
バリンvalineValVGUU GUC GUA GUG(CH3)2CHCH(NH2)COOH

酸性アミノ酸
アスパラギン酸aspertic acidAspDGAU GACHOOCCH2CH(NH2)COOH
グルタミン酸gutamic acidGluEGAA GAGHOOC(CH2)2CH(NH2)COOH

塩基性アミノ酸
アルギニンarginineArgRCGU CGC CGA CGG AGA AGGHN=C(NH2)NH(CH2)3CH(NH2)COOH
ヒスチジンhistidineHisHCAU CACHOOCCH(NH2)CH2‐5‐imidazol
リジンlysineLysKAAA AAGH2N(CH2)4CH(NH2)COOH

ヒトが使わないアミノ酸
セレノシステインselenocysteineSecUUGA 
ピロリシンpyrrolysinePylOUAG 

補足

補足

左手型と右手型
 グリシン以外の天然アミノ酸には光学異性体が存在するが、地球の生物の蛋白質はほぼ全てL体(左手型)のアミノ酸からできており、D体(右手型)のアミノ酸は例外的にしか見られない。
 化学的には性質が等しいが分子構造の異なるD体(右手型)も、L体と等しい量が作られるが、地球上の生物は、ほぼ例外無くL体のみを使っている。なぜL体のみを使うようになったのか、という謎は「アミノ酸の利き手問題」と呼ばれ、生命起源に潜む大きな謎となっている。
 アミノ酸など有機物は、宇宙の星間分子雲などでも作られていることが既に知られている。地球には隕石などとしてもたらされるが、隕石中に含まれるアミノ酸はL体の方が多い。

宇宙空間
 隕石中にL体が多い理由はまだ不明確だが、1998(平成10)年に、アングロ・オーストラリアン天文台のジェレミー・ベイリー(Jeremy Bailey)博士らは、アミノ酸(やアミノ酸前駆体)に円偏光の光を照射したとき、L体とD体とでは、分解や生成の速度が異なる、という推測を裏付ける発見をした。
 宇宙には自然に発生する円偏光の光がある。例えば、中性子星の重力に捉えられた電子は高速で回転し、結果「シンクロトロン放射光」を発する。この放射光は角度により楕円偏光となる。
 ここから、星間分子雲で生成されたアミノ酸やアミノ酸前駆体に中性子星からの円偏光の光が当たり、結果L体のアミノ酸やアミノ酸前駆体の過剰が生じる。やがて星間分子雲が原始星を経て恒星となり輝くようになったとき、この有機物は彗星や微惑星などに取り込まれ、それが惑星に降り注いだ、という仮説を描くことが可能になる。
 この仮説が正しいとするならば、地球で生命誕生時に使われたアミノ酸がL体であり、結果として地球生物はL体を用いているのだと結論付けられる。地球の生物といえども、その誕生に迫ると宇宙スケールの話となる。
 宇宙から同様のアミノ酸が飛来したことは偶然とする科学者も少なくはないが、太古の地球、原始地球の大気などにはアミノ酸を作るための材料は無かったと考えられている。

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