SARS-CoV-2 系統 B.1.1.529
読み:さーず-ころなういるす-つー-けいとう-びー-いち-いち-ごひゃくにじゅうきゅう
外語:SARS-CoV-2 lineage B.1.1.529

 SARS-CoV-2(武漢肺炎ウイルス感染症病原体)のうち、ボツワナで最初に発見された変異株の代表となる系統 B.1.1のうちの一系統。
目次

概要
 WHO名のオミクロン株が該当する。
 Pango系統での分類で別名BAが与えられているが、更にサブグループにBC、BE、BFの別名が与えられている。

サブグループ
 これを著している時点で次のサブグループに分けられているが、大きくBA.1(元々のオミクロン株)、BA.2(その後優勢になった感染力の強い株)、その他の系統がある。またイギリスで、BA.1とBA.2のハイブリッドである未知のXE株も発見されている。

特徴

初出
 実際の発生地は未詳だが、ボツワナ共和国で最初に発見された後、隣国の南アフリカ共和国で蔓延が確認された。その後、香港でも南アフリカからの旅行者で確認されている。
 アルファ株などで感染力を高める働きがあったとみられている「N501Y」の変異を有するが、感染力で全世界に蔓延した系統 B.1.617.2(デルタ株)を特徴付ける変異「L452R」は有していない。

系統
 大流行を招いたデルタ株の系統とは大きく異なる系統のウイルスである。このためデルタ株の持つ特徴は必ずしも持っていない。
 武漢株→アルファ株・ガンマ株の分岐点となる株に近い株から同様に枝分かれしたものと判明している。
 同様に武漢株から変異したベータ株・イプシロン株・ミュー株の系統からは若干遠く、同様に武漢株から変異したデルタ株からはやや遠い。

従来型との差違
 このB.1.1.529株(いわゆるオミクロン株は、従来の変異株と比べて次のような特徴が知られる。
 初期症状と重症化率については、以降の説明も参照のこと。
 従来型と比して伝播性が高く、免疫逃避能も高いため短期間で再感染がありうる。これは自然感染による集団免疫は望みにくく、自然に減ることはあまり期待できないことを意味している。

症状についての注意
 「初期症状の軽さ」と、その後起こる「肺炎症状の重症度」に相関はない。むしろ初期症状が軽すぎると風邪と誤認され、重症化するまで病院での検査をしないために手遅れになる可能性が上がるので注意が必要である。肺炎症状が始まり重症化した後では、初期症状用の治療薬は使えない。
 「重症化率が低い」とは、決して「重症化しない」という意味ではない。2022(令和4)年1月現在、感染の95%がオミクロン株の米国においても入院と重症例が急増しており、ニューヨーク市では入院患者数がデルタ株のピークを越えている。また死者数も、より重症化しやすいデルタ株を上回っており、死亡者の殆どはワクチン未接種者である。
 また「重症化率」については、既に充分にワクチン接種が行き渡った状態でのものであり、つまりワクチン接種済みの人を含めたものである。未接種者は従来株と同様に重症化し、死亡する例が多数確認されているため、決してウイルスが弱毒化したわけではない。従来のワクチンが有効であるという意味である。

高い伝播性

蔓延
 先に全世界で蔓延した系統 B.1.617.2(デルタ株)を上回る感染力を持っている。
 日本では、2022(令和4)年1月の月頭頃はまだ系統 B.1.617.2(デルタ株)が優位だったが、月末頃には系統 B.1.1.529(オミクロン株)にほぼ置き換わった。このように、あっという間にデルタ株を置き換えて蔓延の主流となったが、この理由はいくつか分かってきている。
 スパイク蛋白質の変異のうち、H655Y、N679K、P681Hの三つはスパイク蛋白2箇所の開裂部位(S1/S2)の近くにあるため、これが感染力の増加に関わっている可能性があると考えられているが、これを著している時点では不明である。

世代時間が短い
 系統 B.1.1.529(オミクロン株)の平均世代時間は系統 B.1.617.2(デルタ株)の半分未満と、非常に世代時間が短い。つまり、感染してから他人に感染させるまでの期間が短いため、デルタ株以上に発症前に感染を広めやすくなっている。
 このため系統 B.1.1.529(オミクロン株)は当初、基本再生産数が過大評価され麻疹のように遠くにいても簡単に空気感染するのかと考えられたが、実際にはこれまでの武漢肺炎ウイルス感染症と大差ないことが分かった。
 従って「マスクなしで他人と話さない」を徹底するだけでも感染リスクは大きく減らすことが可能である。

他の変異株よりも長く生存
 プレプリント(preprint)の論文だが、皮膚などの上で他の変異株よりも長く生存するという研究が発表されている。
 これによると、次のようだという。
 オミクロン株は他の変異株よりも環境表面生存時間が長く安定しており、デルタ株より1.7倍も皮膚などの上で生存するとしている。これが感染しやすさ、感染拡大に影響しているものと予想される。
 ただ一般的な消毒用アルコールで充分に不活化ができるようである。

情報

変異

スパイク蛋白質の変異
 系統 B.1.1.529.1の、スパイク蛋白質は元々の株(武漢株)に対して32の変異が見つかっている。変異は次の通りである。

非スパイク蛋白質の変異
 系統 B.1.1.529.1の、非スパイク蛋白質の主な変異は次の通りである。

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