狂犬病
読み:きょうけんびょう
外語:rabies

 狂犬病ウイルスの感染により罹患する病。治療法はなく、発症すると致死率ほぼ100%で、発病後数日で死亡する危険な病である。
目次

疾病

概要
 狂病は名前に反し、だけでなく人間を含めて全ての哺乳類が罹患するウイルス性疾患である。海外では蔓延が続いており、犬だけでなく、アライグマなども持っていることがある。
 これら感染獣に噛まれたりした場合には緊急の対応をしないと死に至る。もし発症したら助からない。
 感染してから発症するまでの期間(潜伏期)は平均30日で、1週間から1〜2年、中には7年の例もあり様々である。

病因
 体内に侵入したウイルスは、末梢神経経由で中枢神経組織に達し、ここで増殖する。そして各神経組織へと広がって、唾液腺でさらに増殖する。
 但し、噛まれた後でワクチンを打っても有効(感染後接種が有効)という珍しい特性を持った病気でもあるため、現在では昔ほどの恐怖はないが、それでも死亡する確率が高い危険な病気には変わりはない。

病態
 犬を例とすると、症状は主に狂躁型と麻痺型があり、狂躁型は神経が過敏となることで狂躁状態となって目前にあるものに次々と噛み付くようになり、やがて全身麻痺をおこし、昏睡状態となって死亡する。麻痺型は発病後にすぐ麻痺をおこすものである。
 視神経が極度に敏感になるためキラキラする物を見るだけで激痛が走るため、水を見ると痙攣したり半狂乱になる。よって病室もカーテンを閉めて暗くすることになる。水を飲む時の刺激だけで痙攣を起こすために、苦痛で水を飲めなくなるため、恐水症とも呼ばれている。
 脳神経を冒されるために犬は飼い主の識別も不能となり、咬傷事故が多発する。飼い犬でも狂犬病の犬に咬まれた場合は速やかにワクチン接種をしないと、飼い主も飼い犬の後を追うことになる。

予防と治療

感染から発症までの間の確認方法
 狂犬病は、感染してから発症するまでの期間(潜伏期)が比較的長い。そして発症したら最後である。
 しかし、発症前に感染の有無を診断することはできない。

治療
 発症後の有効な治療法は存在しない。
 感染獣に咬まれたり引っかかれたりした場合、発症前であればワクチンの曝露後接種が行なわれるが、発症を抑えられるかどうかは未知数である。

暴露後のワクチン接種
 もし犬や猫その他の獣に咬まれたりした場合は、速やかに暴露後のワクチン接種が必要となる。
 暴露前に3回の予防接種をしていた場合、暴露後ワクチン接種は2回実施するが、もししていなかった場合は6回実施する必要がある。

海外渡航前のワクチン接種
 海外渡航前には、その地域に応じて様々な予防接種が必要となるが、狂犬病も同様である。
 犬、狐、猫、アライグマ、コウモリなどが多い地域に行く場合は必要で、特に奥地や秘境など医療機関が乏しい地域に行く場合は必須である。繰り返すが発病してしまったら絶対に助からない。
 ウイルスに感染してしまった後を「暴露後」、その前を「暴露前」といい、暴露前は基本的には3回の接種が必要である。また、暴露前接種をした場合でも、咬まれたりした場合は暴露後のワクチン接種が必要となる。

狂犬病ワクチンは保険適応外
 日本でも狂犬病ワクチンは保険適応外なので、実費である。従って医療機関ごとに値段に差がある。
 渡航前の予防接種3回、何事もなければそれだけで済むが、1回あたり1万5000円(税別)前後が相場で他のワクチンと比較しても高額の部類に入る。

特徴

年間死者数
 狂犬病による死者はアジアやアフリカなどの後進国を中心として、世界で年間5万〜6万人程度いるとされる。

致死率がほぼ100%の理由
 米疾病対策センター(CDC)によると、2004(平成16)年末現在、発病後の生存例として正式に報告されているものは世界で僅か6例のみであり、うち5例は感染後、発病する前にワクチン接種を受けた患者である。
 6例目はワクチン接種もなく発病したケースとしては世界初の生存例であり、麻酔薬と抗ウイルス剤を継続投与することでウイルスの除去に成功し奇跡的な回復を遂げた。しかし神経系へのダメージや著しい衰弱の後遺症が残ったとされる。
 このように、狂犬病は長い人類の歴史でも文献的に助かった例が殆ど見当たらないことから、発病はすなわち死亡を意味し、致死率は100%と言われている。

補足

日本の狂犬病予防法
 日本では1950(昭和25)年に狂犬病予防法が作られ、犬の登録と予防接種が義務づけられてから狂犬病は激減、1957(昭和32)年に撲滅されて以降、2020(令和2)年まで発生は報告されていない。
 しかし世界的には野生動物の感染もありまだまだ油断できない病気であり、海外からの帰国者または来日者による狂犬病輸入症例は1957(昭和32)年年以降、1970(昭和45)年に1例、2006(平成18)年に2例、そして2020(令和2)年に14年ぶりの狂犬病患者が報告されるなどしている。
 犬に限ってみても、例えばロシアがある。ロシアには野犬も多く、狂犬病も大流行していて毎年多くの人が死亡している。しかしロシア船舶の船員のペットはワクチンを打っていなかったり、小犬を連れて来ては日本で売っていたりするため、日本に再び狂犬病ウイルスが広がるのは時間の問題であると考えられている。
 こういったことから、犬の登録と狂犬病予防注射は飼い主の義務となっており、犬の飼い主には、
  1. 現在居住している市区町村に飼い犬の登録をすること (犬を取得した日から30日以内、子犬の場合には生後90日を経過した日から30日以内。また、犬の死亡、所在地の変更、犬の所有者の変更の場合にも30日以内に行なうこと)
  2. 飼い犬に年1回の狂犬病予防注射を受けさせること
  3. 犬の鑑札と注射済票を飼い犬に装着すること
 以上が法律により義務付けられている。
 犬の鑑札と予防注射済票は常に犬に付けておく必要があり、通常は首輪に付けておく。犬の首輪は犬鑑札と予防注射済票を付けることが前提になっているため、紛失や傷が付きにくいよう工夫されているものや、おしゃれな「犬鑑札入れ」付きの製品なども広く市販されている。この鑑札には自治体名と登録番号が記載されているため、万が一飼い犬が迷っても、番号から確実に飼い主の元に戻すことができる安心感もある。

犬のワクチン接種が毎年の理由
 犬の予防接種は毎年1回実施されている。
 この理由は簡単で、1回の接種では免疫が1年間持続しないことがあるからである。従って本来なら年数回接種する方が安心、ということだが、それを実施するかどうかは飼い主の判断である。
 法律上は最低でも年1回はしなければならないと義務づけており、これは愛犬を守るための飼い主の責務である。

猫は?
 狂犬病は犬だけでなく猫も含めた哺乳類全般がかかる可能性からすると、猫も接種した方が良いことは間違いない。ただこれは獣医師の判断を仰ぐべきであろう。
 ただ少なくとも日本では猫は発症していないので、今の日本の状況なら猫については必ずしも必要ではなく、このため猫の予防接種については法律上の義務はない。

犬へのワクチン接種の状況
 犬のみ義務づけられているワクチン接種だが、登録された犬が100%接種しているかというと現実にはそうではなく、かなり危険な状況である。
 近年の日本では、副反応や費用を理由に、犬への狂犬病ワクチン接種義務付けを廃止しようなどという動きもあるらしい。これは要するに「平和ボケ」の一種である。
 また犬を飼う場合、登録と予防接種は飼い主の義務であるが、登録率と接種率は全国平均で約7割とされている。接種率が7割を下回ると、感染症が発生した場合の蔓延防止が困難になるとされる。

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