ヒッグス粒子
読み:ヒッグスりゅうし
外語:higgs boson

 ヒッグス機構において現われる素粒子ボース粒子(ボソン)である。
目次

概要
 英国の理論物理学者ピーター・ウェア・ヒッグス(Peter Ware Higgs)が、質量の謎を説明するために1964(昭和39)年に提唱した。
 理論では、ヒッグス場の存在を予測し、この場によって質量が与えられる相互作用をヒッグス機構という。そしてヒッグス粒子とは、このヒッグス場の4つあるモードのうちの一つを量子化したもの(粒子的な描像)である。
 つまりヒッグス粒子自体はヒッグス場の一種の励起状態だが、これはすぐに崩壊して基底状態に落ちる。但しその際に余剰エネルギーが様々な粒子として放出されるため、検出することが可能である。

特徴

性質
 ヒッグス粒子は、スピンは0のスカラー粒子である。
 反粒子は「反ヒッグス粒子」である。

標準理論

発見
 ヒッグス粒子は、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を用いた実験により、2011(平成23)年頃からほぼ発見された状況だった。
 物理実験で発見を宣言できる99.9999%以上を達成したのは、正式に論文発表された2013(平成25)年10月4日である。
 そしてこの年、提唱者のピーター・ウェア・ヒッグス博士は、同年のノーベル物理学賞を受賞した。

質量
 「質量」とは、「動きにくさ」であると表現できる。
 何もなければ、素粒子には質量はなく、また素粒子は光速で動くことができる。光速から動きにくさの分を引くと実際の速度であり、この動きにくさが質量であると説明される。
 標準理論では、このように素粒子に質量を与える場をヒッグス場といい、ヒッグス場を量子化したものとしてヒッグス粒子が提唱された。

その他の質量
 質量の全てがヒッグス場に起因するわけではない。
 ヒッグス粒子そのものと、右巻きニュートリノは、ヒッグス場とは無関係に質量を持っている。
 現在、ヒッグス粒子自体の質量は輻射補正と呼ばれる理論的計算により、トップクォークウィークボソンの質量に関係付けられている。ヒッグス粒子の質量を間接的に予測するため、トップクォークとウィークボソンの質量を精密に測定することに力が注がれた。

ヒッグス場
 標準理論を成立させるために導入されたものがヒッグス場であり、ヒッグス場で素粒子の質量が得られる相互作用がヒッグス機構である。
 ビッグバン直後すなわち宇宙の初期状態では、すべての素粒子は自由で、光速で移動できた。やがて自発的対称性の破れが生じ、真空に相転移が起こることでヒッグス場が生じた。殆どの素粒子はヒッグス場に当たることで抵抗を受けて「動きにくく」なった。すなわち質量を得たことになる。
 ヒッグス場は宇宙全体に広がっており、ヒッグス場と物質との相互作用の強さが、結果として質量の大きさとして観測される。
 なお、素粒子の中でも、光子はヒッグス場に当たって抵抗を受けることがないため、相転移した後の現在においてもなお、質量を持たず、自由に動き回ることができると説明されている。

仮説

暗黒物質
 大阪大学大学院理学研究科教授の細谷裕の提唱によれば、ヒッグス粒子は、宇宙を満たす謎の暗黒物質(ダークマター)と同じものであるとする。
 ヒッグス粒子についても大きな貢献をしている、ノーベル物理学賞を受賞したアメリカの南部陽一郎博士もこの説に対し「今まで誰も気づかなかった見方で、十分あり得る」と評価をしたとされる。

複数粒子説
 2012(平成24)年7月、アルゴンヌ国立研究所の研究者らにより、ヒッグス粒子が複数の粒子からなるとする仮設が立てられた。
 2013(平成25)年の名古屋大素粒子宇宙起源研究機構を中心とするグループによる研究でも、ヒッグス粒子は複数の未知の粒子が結合した「複合粒子」とする仮説が立てられた。仮説によると、未知の粒子が2種類として計算した場合、質量などがヒッグスの性質に近くなるとしている。

研究

大型ハドロン衝突型加速器(LHC)
 約5500億円を掛け、ジュネーブ郊外の地下100m、スイスとフランスの国境をまたいで、世界最強最大の粒子加速器が作られた。
 これが大型ハドロン衝突型加速器(LHC)であり、欧州合同原子核研究機関(CERN)が運営する。
 一周約27kmあり、これは山手線の規模に相当する。このリングの中に陽子を入れて加速し、光速の99.9999991%まで加速した陽子同士を正面衝突させる。
 2011(平成23)年12月8日、ヒッグス粒子を発見した可能性が高いためCERNが12月13日に緊急記者会見を開くと報じられたことから世界中で大きな騒動となった。発表によれば、実験データの解析により、東京大学も参加するアトラスチームの結果で粒子が存在する確からしさは98.9%で、来年までにさらにデータ蓄積を進め、物理実験で発見を宣言できる99.9999%以上を目指すとした。
 2012(平成24)年7月4日(日本時間)、CERNは、質量125.3±0.6GeV、統計的有意性は4.9σと発表、更なる実験と検証を重ね、ヒッグス粒子かどうか結論を出したいとした。
 2013(平成25)年3月14日、CERNは、昨年7月に見つかった新粒子がヒッグス粒子であることを強く示す、とする公式見解を発表、「ほぼ確実」であるとした。
 2013(平成25)年10月4日、東京大学などが参画するCERNの国際研究グループは、ヒッグス粒子発見のデータを論文にまとめ、欧州の物理学専門誌「フィジックスレターズB」に正式に報告した。7日付で掲載される。これにより、2013(平成25)年10月8日、ピーター・ウェア・ヒッグス博士はこの年のノーベル物理学賞を受賞した。

リニアコライダー
 国際協力で「ILCリニアコライダー」と呼ばれる全長30km〜50kmの直線型加速器を建設する案が持ち上がった。
 これは、電子陽電子光速近くまで加速し、両者を衝突させてヒッグス粒子を発生させ、その特徴を調べようとするものである。
 建設費は5000億〜1兆数千億円と見積もられていた。これを日本に誘致しようと、自民党には2006(平成18)年6月15日、与謝野馨金融担当相を代表とする建設推進議員連盟が設立されていた。
 しかし民主党に政権を奪われ予算が無くなったため計画は頓挫、ヒッグス粒子の発見はCERNに先を越されることとなってしまった。

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