プルサーマル
読み:プルサーマル
外語:pulthermal

 原子力発電核分裂反応により生成され、再処理によって回収されたプルトニウムを、再び原子力発電で利用すること。資源のリサイクルの一つ。
目次

概要

趣旨
 現在の主流である軽水炉でも、燃えないウラン238中性子を吸収し徐々にプルトニウム239に変化している。やがて平均して出力の1/3は炉の中で生成されたプルトニウムの燃焼による出力となる。
 つまり、ウランを燃やす軽水炉は、実質的にはプルサーマルと大差無い動作をしている。言いかえれば、元の燃料の1/3までは最初からプルトニウムでも理論上は問題がないと言える。
 こうして、大きなエネルギーを持ちながら現実にあまり使いみちがないプルトニウム資源を有効活用しようというのが、プルサーマルというわけである。
 ちなみに1gのプルトニウムのエネルギーは、石油約2000L、石炭約3トン、天然ガス約1.5トンに匹敵すると言われる。

名前
 プルサーマルの「プル」はプルトニウムのこと。「サーマル」は、軽水炉の別名である熱中性子炉(Thermal-neutron reactor)のことで、それぞれから取られた名である。
 ただしこれは和製英語(?)であり、英語圏では通じない。

特徴

利点
 普通のウラン用軽水炉でもプルトニウムが核分裂反応に寄与し、その割合は平均して30%である。
 ウランにプルトニウムを4〜9%混ぜたMOX燃料炉心の1/3まで用いたプルサーマルの場合、プルトニウムが核分裂に寄与する割合が平均で50%強程度に向上する。
 通常の軽水炉で、MOX燃料を通常のウラン燃料とほぼ同様に利用できることから、原子炉の大幅な改造しなくてもプルトニウムを燃料として使える利点がある。

安全性

危険性
 理想的ではあるが、その一方でプルサーマルの実現には大きな危険も伴う。
 問題は大きく「燃料製造過程」と「燃料の利用」とに分けられる。

燃料製造
 燃料製造、つまり燃料の再処理は、軽水炉での使用済み核燃料に数%含まれるプルトニウムを抽出することである。
 燃料棒を切断して濃硝酸で溶解することになるが、この時、核分裂でできた様々な放射性物質が放出される。
 また万一プルトニウムやウランが臨界量を超えて集まると、臨界事故が起きてしまう恐れがある。
 MOX燃料ではα崩壊するプルトニウム238プルトニウム239、アメリシウム241などを含む。α線は直ぐに熱に変わってしまうため、これらはウランなどと比較すると非常に発熱し、製造にも、貯蔵にも、発熱に対する対策が必要となる。
 更に、抽出に使う有機溶媒は火災を起こしやすいが、もし再処理工場で火災になればプルトニウム微粒子が撒き散らかされる可能性もある。そうでなくともプルトニウムがβ崩壊してできるアメリシウム241はγ線を放出し、作業者を被曝させてしまう。

利用
 軽水炉では全燃料をMOX燃料にするのは不可能で、またMOX燃料は制御棒から離れた場所に配置するなどの工夫が必要である。
 更に、プルトニウムは反応が速く、中性子のエネルギーも高いので制御が難しい。
 熱中性子による運用が前提の軽水炉でプルトニウムだけを燃焼させるのは危険なため、プルトニウム利用を前提としMOX燃料を本格利用する世界初の原子炉として、実験転換炉「ふげん」が作られた。

目的
 プルサーマルに限らず、原子力発電は危険である。しかし、原子力発電を止めることはエネルギー需要を考えると不可能である。
 そして、日本が危険を冒してまでプルサーマルを推進するのは、これもまた止むに止まれぬ事情があるからである。
 日本の原子力基本法は平和利用を明言しているため、余ったウランやプルトニウムを集めて核兵器を作る、ということが出来ない。だが、プルトニウムはソフトボールくらいの大きさがあれば、核兵器になってしまう。
 実際には「核兵器にならない同位体」も多いが、説明しても分かろうとしない人は分かってくれないので、余剰なプルトニウムを持てば核兵器開発の疑念が持たれるのは避けられない。ゆえに、大量に国内に蓄積できないという都合がある。
 そこで何とか再利用してでも使わないと、色々な意味でやっかいなゴミになってしまうわけである。加えて使用済み燃料の保管場所にも限度があるので、いずれにせよ何らかの処置をせざるをえない。つまり、仮に採算割れであってもプルサーマルをせねばならないというのが実情なのである。

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