赤方偏移
読み:せきほうへんい
外語:redshift

 天体が観測者から遠ざかる運動をしている場合、ドップラー効果により、スペクトル線が全体的に赤い(波長の長い)方向へずれる、という現象のこと。
目次

概要
 赤方偏移量zを測定すると、その天体が地球から後退する速度を求めることができる。
 波長λを観測したところ、Δλずれていた場合、赤方偏移量zは次のように求められる。
 z = Δλ / λ
 つまり、赤方偏移量zは、波長がz+1倍に伸びたことを示す。
 実際の観測対象は水素のライマンα線(121.6nm)で、観測結果÷121.6[nm]-1をzとする。
 例えば900nmで観測されたら、z=900÷121.6-1なので、z=6.40ということになる。
 天文学では、遥か遠方にある銀河等の距離を論ずる時は、赤方偏移量zを指標にする。

特徴

値の範囲
 赤方偏移zは、0以上の値で、最大は(無限大)である。
 今現在(あるいはすぐ目の前)は、赤方偏移していないので、赤方偏移量z=0となる。
 そして遠いところ、宇宙マイクロ波背景放射はz≒1000、宇宙の誕生当時(ビッグバン)はz=∞に対応する。
 宇宙背景放射に対応する赤方偏移量z=1000より以前には銀河などは存在していなかったと考えられており、それ以降に星や銀河が形成されたと考えられている。

偏移量と距離
 実際の観測量である赤方偏移量zから距離を求めるためには、採用する膨張宇宙モデルを求めねばならないが、現在まだ正確な値は求められていない。
 それでも、光の速度が有限である以上、赤方偏移量が大きい天体はかなり遠方にあることだけは確実である。つまり赤方偏移量が大きい天体を観測するということは、それだけ宇宙の過去を観測することに繋がり、延いてはビッグバンに近い時代を見るということである。
 ちなみに現在は加速膨張モデル(宇宙の膨張速度が加速していること)を使うことが多いので、zの大きさと距離は比例しない。

偏移量と後退速度
 地球から遠ざかる速度が赤方偏移量である。
 このとき、z=1.7程度が、現在地球で観測される光を放った当時に概ね光速で遠ざかっていた天体となる。
 従って、これよりも赤方偏移の大きな天体は、超光速(光よりも速い速度)で地球から遠ざかっていることになる。これは、宇宙が超光速で膨張していることの証明でもある。

未知の領域
 現時点で人類が観測したのは赤方偏移量z=0〜10程度までであり、赤方偏移量10程度〜1000まではまだ観測できていない。
 分かりやすく言えば、およそ132億光年彼方の天体までは現在観測に成功したが、その先の約5億光年の範囲はまだ観測できていない、ということである。

距離との関係

関係
 赤方偏移量zと距離(光年)は、40億年程度までは比例関係にあるが、それを超えると徐々に赤方偏移が大きくなる傾向にある。これは、遠方の天体は後退速度が光速を超えており、また宇宙は加速膨張しているため遠方ほどその傾向が強いためである。
 そして、宇宙が誕生した瞬間の137億年前は、無限大となる。
 赤方偏移と距離の関係は、計算式に与えるパラメーターによって変化するため資料によって異なるが、一例としては、次の通りである(文献: 大阪市立科学館研究報告 20, 61 - 63 (2010) 石坂千春)。Tが見かけの距離、xが実際の距離である。またその光がt億光年掛かって届いたとすると、t億年前には、その天体はx0億光年の距離にあった。
zTx(現在)x0
億年億光年億光年
0.000.000.000.0
0.011.371.371.4
0.022.722.732.7
0.034.054.094.0
0.045.375.455.2
0.056.666.796.5
0.067.948.147.7
0.079.209.478.9
0.0810.410.810.0
0.0911.712.111.1
0.112.913.412.2
0.224.126.321.9
0.334.038.529.7
0.442.650.235.8
0.550.361.240.8
0.657.071.644.8
0.763.081.547.9
0.868.390.850.4
0.973.199.652.4
1.077.410854.0
1.181.211655.1
1.284.712356.0
1.387.813056.6
1.490.713757.0
1.593.314357.3
2.010317156.9
2.210618056.2
2.410918855.4
2.611119654.5
2.811320353.5
3.011521053.4
3.511822550.0
4.012123847.5
4.512324945.2
5.012525843.0
6.012727439.1
7.012928735.9
8.013029733.0
9.013130630.6
10.013231428.5
1374730.0
 また、別の資料では、次のような換算がなされていた。

ライマンα線
 遠方の天体はスペクトル観測をするが、このとき使われるのが、水素原子のライマンα線である。
 これは121.6nmの紫外線である。
 遠いほど赤方偏移が大きくなるが、赤方偏移が2.29で波長400nmに達し可視光線に、赤方偏移が7.22で波長は1000nm=1μmに達して赤外線となる。更に、赤方偏移が821.37に達すると100000nm=0.1mmに達して電波となるが、ここまでの観測は現時点ではできる見込みすらない。
 したがって、現時点での初期の銀河などは赤外線での観測が主戦場ということになる。遠方、つまり宇宙の始まり近くの天体を観測しようとすればするほど赤外線での観測が必要となるが、赤外線は地上での観測が難しいため、赤外線天文衛星が使われている。

観測記録

遠方の観測
 地球から遠い天体の探索は日々続けられている。
 赤外線天文衛星の打ち上げで、さらに遠方の天体の観測が進んだが、近年は遠方のγ線バーストの発見が多く、遠方の銀河の観測は頭打ちの状態にあるらしい。
 2018(平成30)年には、ハッブル宇宙望遠鏡の後継となる「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」が打ち上げ予定となっている。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は大きく赤方偏移した100億光年以遠の超遠方天体の観測のために、微弱赤外線のみの観測に特化した。
 ハッブルと違い、紫外線や可視光線は完全無視の割り切り仕様である。この望遠鏡での観測が始まれば、新たな知見が得られると期待されている。

最遠天体
 最遠天体は観測が続けられており、不定期に更新される。

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