殺虫剤
読み:さっちゅうざい
外語:pesticide
病害虫を駆除するための薬剤。
目次
概要
特徴
歴史
種類
効果
主要な成分
有機塩素系殺虫剤
有機燐系殺虫剤
カーバメート系農薬
ピレスロイド系
硫酸ニコチン
ネオニコチノイド
市販品
概要
アブラムシなどから農作物を守るために使われる殺虫剤は「
農薬
」の一種である。これは農林水産省の管轄である。
ゴキブリ
、蚊、蝿などを駆除するために使われる殺虫剤は「防疫用殺虫剤」または「防除用医薬部外品」と呼ばれる。こちらは厚生労働省の管轄である。
特徴
歴史
人類が農耕を開始してから現在に至るまで、それは病害虫との戦いの日々であった。
古くより稲作をおこない米を食べてきた日本も、稲が害虫に襲われれば飢饉が起こり、多くの死者を出す惨事を招くことがあった。このため、人が生きるためには害虫駆除は欠くことの出来ないこととなり、農薬の研究は進んでいった。
また除虫菊は古くから殺虫効果があることが知られ、蚊取り線香の原料として広く使われた。
1930年代、
第二次世界大戦
も近い時代になると、
DDT
などの有機塩素系殺虫剤や、様々な有機燐系殺虫剤が開発されるようになり、これらは戦後、広く使われるようになった。但し、有機塩素系殺虫剤は人体にも有害なことや、自然界で分解しにくいことから早々に製造中止となり、農薬では主として有機燐系、日常の病害虫駆除ではピレスロイド系で、なるべく人体への害が少ないものの開発が進められるようになった。
種類
長い歴史の中で様々なものが作られ使われてきた。特に、農業の敵であるアブラムシ類は次々と従来剤に対する抵抗性を示すようになっているため、対策として次々と新しい系統の殺虫剤が開発されることになっている。
また蜜蜂への影響が問題視されるようになってからは、蜂への影響が少ないものも開発されるようになった。
そのような中でも代表的なものは次の通りである(順不同)。
化学殺虫剤
神経剤
有機塩素系
有機燐系
硫酸ニコチン
ネオニコチノイド系
クロロニコチル系
チアニコチル系
フラニコチル系
カーバメート系
ピレスロイド系
オキサジアゾール系 ‐ アースレッドプロ、バルサンなど
有機珪素系(有機ケイ素系)
ネライストキシン系
アミジノヒドラゾン系 ‐ アリの巣コロリなど
有機弗素系(有機フッ素系) ‐ スーパーアリの巣コロリ、コンバットなど
フェニルピラゾール系 ‐ ブラックキャップなど
マクロライド系
アベルメクチン類
ミルベマイシン類
スピノシン類
BT剤
Naチャンネル阻害剤
細胞内呼吸阻害剤
電子伝達系I阻害剤
電子伝達系II阻害剤
電子伝達系III阻害剤
脱共役剤
昆虫成長制御剤(IGR剤)
キチン合成阻害剤
脱皮ホルモン代謝阻害剤
脱皮ホルモン様活性物質剤
幼若ホルモン様活性物質剤
その他
代謝系阻害剤
テトロン酸系 ‐ 脂質生合成阻害剤
ジハロプロペン系
筋収縮剤
ジアミド系
その他
粘着剤
誘引剤
忌避剤
性フェロモン剤
効果
どのようにして殺虫するかにより、様々なものが作られている。
神経剤 ‐ 神経伝達を異常化させ、痙攣や麻痺で摂食や移動を阻害し、死亡させる。殺虫剤の主流
細胞内呼吸阻害剤
昆虫成長制御剤(IGR剤) ‐ 正常な脱皮、蛹化、羽化などを阻害して死亡させる
代謝系阻害剤
筋収縮剤
「即効」が求められる需要と、即効よりも残効が重視される需要とでは、使われる系統が異なる。
主要な成分
代表的なものの詳細は次の通りである。
有機塩素系殺虫剤
いずれも昆虫の神経を麻痺させる神経毒である。
DDT
BHC (
ヘキサクロロシクロヘキサン
)
DDTは昆虫の神経軸索のナトリウムイオンチャンネルに作用し、神経伝達物質を異常放出させることで正常な神経伝達を阻害するものである。
いずれも毒性が強く、自然界で分解されないことから生物濃縮が生じたため、現在では殆どの国で製造販売が行なわれていない。
有機燐系殺虫剤
通常、神経伝達には
アセチルコリン
が使われている。アセチルコリンは、神経伝達後にはアセチルコリ分解酵素アセチルコリンエステラーゼ(AChE)によって分解されるため、アセチルコリンが過剰になることは通常はない。
有機燐系殺虫剤はこのAChEに結合し、不可逆的にその機能を阻害する。もって体中に過剰のアセチルコリンを蓄積させ情報伝達を阻害する神経毒である。
クロルピリホス
(2921-88-2)
ジクロルボス
(62-73-7)
トリアゾホス
(24017-47-8)
パラチオン
メタミドホス
(10265-92-6)
有機燐系殺虫剤はコリンエステラーゼのセリン残基を燐酸化することで活性を不可逆的に阻害するのが特徴となる。
カーバメート系農薬
カーバメート系農薬あるいはカーバメート剤は、カラバル豆という有毒な豆の成分に見られるカーバメートと呼ばれる独特の構造をもった薬剤である。
自然界にあった成分を参考にして、人工的に合成されたものが使われており、効果は有機燐系殺虫剤などと同様でアセチルコリンエステラーゼ(AChE)の働きを阻害する神経毒である。
カルバリル
メソミル
カーバメート剤はコリンエステラーゼのセリン残基に対し、燐酸化はせず、カルバモイル化することで活性を可逆的に阻害するのが特徴となる。
ピレスロイド系
除虫菊に含まれる成分の総称をピレスロイドといい、この誘導体である合成ピレスロイドが、
ピレスロイド系殺虫剤
として広く使われている。
ピレスロイド系殺虫剤は、有機塩素系殺虫剤と同様に昆虫の神経軸索のナトリウムイオンチャンネルに作用し、神経伝達物質を異常放出させることで正常な神経伝達を阻害するものである。虫はそのまま痙攣と麻痺で死亡する。
効果が強く、人間への安全性も高いことから、現在、蚊取り線香や液体蚊取り、ゴキブリ駆除スプレーなど様々な市販の殺虫剤は、主としてこのピレスロイドである。
硫酸ニコチン
タバコ属植物に含まれているアルカロイドである。
ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に作用することで、神経系を興奮させ続けることで殺虫する。
植物には無毒だが、動物でもアセチルコリンは作用していることから人畜に害がある難点がある。
ネオニコチノイド
クロロニコチニル系殺虫剤を総じてネオニコチノイドという。人畜に有害な硫酸ニコチンの毒性を低減するように開発された。植物には無毒だが、動物ではなお有害である。
硫酸ニコチンと同様、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に作用することで、神経系を興奮させ続けることで殺虫する。
アブラムシ駆除のため世界的に使われている。即効性はなく散布後もアブラムシは生きているように見えるが、麻痺症状は即効であり実は死へのカウントダウンはすぐに始まる。やがて動くのもままならなくなり、数日後には死んでいる。
ネオニコチノイドは、蜜蜂の大量死を招くとして、国によっては規制されている。
市販品
殺虫剤でも、農業で使うような、希釈して使うための高濃度のものは殺人にも使えるため購入に際しては印鑑などが必要となる。
市販されている製品は、比較的毒性が低い成分を使用しているものであり、その多くはピレスロイドである。
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