心房中隔欠損症
読み:しんぼうちゅうかく-けっそんしょう
外語:ASD: Atrial Septal Defect

 心臓の左右の心臓を仕切る壁(心中隔)のうち、心房中隔(左心房右心房を隔てる壁)が欠損している症状のこと。
目次

疾病について

病因
 この疾患では心房中隔に欠損があるため、から戻ってきた血液は全て大動脈へは流れず、一部が穴より、本来なら静脈血が流れ込む右心房に流れ込んでしまう。
 これは、心臓の収縮に伴い血圧の高い方から低い方へ血流が発生するからで、延いては左心房から右心房へと向かう血流が生じることになる(左→右短絡)。
 従って、酸素の多い血液の一部は身体を巡らず、再び肺へとすぐに戻されてしまう。つまりこの患者は、通常より少ない動脈血で全身を維持していることになる。
 また、高圧の血液が右心系に流れ込んでしまうため、肺高血圧症など合併症を招く恐れもある。

病態と合併症
 穴が小さく、短絡量も少ない軽度の患者であれば、特別な手術治療も内服治療も必要なく、運動制限なども必要がなく、通常の発育が見込まれ、普通の生活が可能である。
 唯一、感染性心内膜炎の予防に注意するのみである。これは、穴によって乱流が発生すると、血液中に細菌が流れる菌血症の状態になった時、心内膜に細菌が病巣を作るという病態である。病巣になってしまうと抗生物質も効きにくく、敗血症を招き重篤化する。
 中程度以上の病態では、発育障害や呼吸困難、あるいは心不全などを起こす恐れがあり、また放置すれば肺動脈の動脈硬化や大動脈弁閉鎖不全症などの合併症を起こし、危険な状態となるため、早期の手術が必要である。

診察・治療

概要
 幼児期で欠損が小さい場合は自然治癒の可能性があるが、そうでない場合、自然治癒は見込めない。
 短絡量が少ない場合は特別な治療は不要なこともあるが、多い場合は外科的な手術をする以外、治療の方法はない。
 また手術箇所が心臓ということもあり、必ずしも成功できるとは限らない。

外科治療
 人工心肺装置を用い、心臓を止めた後心臓を切開し、穴を直接縫い合わせる外科手術である。
 子供の場合は直接縫い閉じることが多いが、穴が大きい場合等には、パッチと呼ばれる人工のあて布を左右の心室の間に当てて縫い合わせることがある。
 2〜3週間の入院が必要になる大手術となるほか、胸に10cm程度の切開傷が残ってしまう。

閉鎖栓
 最近ではこれと別に、形状記憶合金(ニッケルチタン製)の細い針金を傘のように編んだ「閉鎖栓」を使う手術が発明され、日本では2006(平成18)年4月より保険適用となった。
 方法は、この栓を折り畳み、直径約3mmのカテーテルに入れ、X線や超音波画像で確認しながら足の付け根より静脈を辿って心臓へ送る。まず左心房で一つめの傘を開き、穴の位置に合わせてもう一つの傘を開いて、二つの傘で穴の周囲を挟んで塞ぐ。
 手術は二時間程度で、一週間の入院が必要である。
 穴が小さい場合は外科手術より安全であるが、アメリカでは治療後に栓が心臓壁に当たり別の穴が開いて外科手術が必要となった失敗例もある。
 日本では安全を期すため手術できる施設に条件があり、2006(平成18)年5月19日現在は次の3施設で手術できる。今後施設は増えるものと見られる。
  1. 国立循環器病センター
  2. 埼玉医科大学病院
  3. 岡山大学医学部・歯学部附属病院
 閉鎖栓が輸入承認された2005(平成17)年3月から2006(平成18)年5月まで、計59人に治療が行なわれた。栓の脱落はなく、全例で経過は良好とされる。

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