人工心臓
読み:じんこう-しんぞう
外語:artificial heart

 人工臓器のうち、人工的に作られた心臓のこと。
目次

概要
 人工心臓とは言っても、現在の医学・科学においては本物の心臓と同等のものは作れないので、それはポンプからなる機械ということになる。
 そして現在においてもなお、完全に心臓と置換可能な人工心臓は完成されていない。

初期
 人工心臓の原形は1935(昭和10)年頃から作られはじめたが、その後の歴史には日本人が大きく関わっている。
 1957(昭和32)年に米国クリーブランドクリニック研究所で阿久津哲造が世界初とされる完成された人工心臓を犬に埋め込む実験を実施した。この犬は1時間半生存したという。

特徴

種類
 人工心臓には大きく二種類がある。
 自分の心臓はそのまま用いつつ、心臓のそばに設置することで働きを助ける(主として左心室を補助する)のが補助人工心臓(VAD)である。
 既存の心臓を取り除き、それに代えて用いるのが全置換型人工心臓(ATH)である。

補助人工心臓
 補助人工心臓は、主として左心室を補助する。
 左心室は大動脈に血液を送り出す心室であり、負担が大きく弱りやすい。これを補助すれば心機能はかなり改善される。また心臓が回復すれば取り外すことも可能である。
 具体的には、左心室に穴をあけて補助人工心臓を繋ぎ、さらに大動脈へ接続する。
 このタイプは比較的以前から使われており、心臓移植までの繋ぎに用いられた。

全置換型人工心臓
 自分の心臓を、完全に置き換えるのが全置換型人工心臓である。
 手術中に使う人工心肺装置なども含め、さまざまなものが作られ、研究が進められてきた。
 最近になり、ようやく完全埋め込み型がアメリカで登場した。また、日本でも完全埋め込み型の治験が行なわれ、好成績を残している。

脈拍

脈動の有無
 人工心臓には更に大きく二種類に分けられ、一つは本物の心臓のように脈動があるもの、もう一つは脈打たないもの、である。
 当然湧いて来る疑問「脈拍は無くても問題ないのか」という点については、現在も両派が激しく議論を続けているが、無拍動型人工心臓を埋めこまれた牛が何の問題もなく生活を続けた、とされている。
 ここから現在では、血液は、必要な量が淀みなく体内を巡ってさえいれば問題はない、という見解が主流のようである。

拍動型
 本物の心臓のように、流れる容積を変えるために血液室と弁を使ったポンプを動かすものである。
 このタイプだと、概ね術後の寿命は一ヶ月程度とされている。
 寿命が短いように思われるが、そもそも人工心臓のポンプは水の汲み取りなどに使う鋼鉄製の圧縮ポンプとは別物であり、一日10万回の拍動を、心臓と同じくらいの弱い力で続けなければならない機械である。技術的にもかなり難しいものなので、寿命が短い点もやむを得ないといえる。

無拍動型(定常流型)
 こちらは、回転するモーターを用いて、連続的に血液を流すものである。
 拍動型と比較して構造が極めて単純で、稼働部品が少なく、小型化も可能なため胸郭の狭い女性や子供でも利用可能である。また理論上、部品交換なしで10年以上、稼働可能とされている。

実績

アビオコア
 アビオコア(AbioCor)は、米アビオメド社が開発し、米食品医薬品局(FDA)に申請した、世界初の完全埋め込み型人工心臓である。拍動型であり、FDAは、2006(平成18)年9月6日までに、販売を認可した。
 この人工心臓は、重さ約900gで、ソフトボール大。心臓を取り出して、この人工心臓に置き換える。電源は外部からワイアレスで与える。
 使用条件は、高齢ないし医学的理由により心臓移植が困難で、余命が30日未満の心臓病患者、とされた。
 予測患者寿命は60日以内で、それ未満なら失敗、60日生きて成功、それ以上生きれば大成功である。つまり約30日間の延命である。費用は医療費を含め、数ヶ月間で数十万ドル(日本円にして数千万円)とされている。
 臨床試験によると、移植された患者14人のうち、手術中に2名死亡、他に脳梗塞などを起こす等し、平均寿命は約5ヶ月だったとされる。
 完成度という点ではまだまだと言えるが、来月確実に死ぬか、賭けで半年生きてみるか、の選択は可能になったと言えるだろう。

エヴァハート
 エヴァハートは、東京女子医科大学、早稲田大学、ピッツバーグ大学(米国)が協同開発した無拍動型(定常流型)人工心臓の商品名である。
 厚生省の認可を得て、株式会社サンメディカル技術研究所が販売し、約3年間の治験が行なわれた。
 2008(平成20)年8月18日の日本心臓移植研究会での発表によると、装着患者の6ヶ月生存率は89%、1年生存率は83%で、心臓移植並みの好成績を挙げたとしている。
 脳死での臓器提供の少ない日本では、人工心臓が移植の代替医療になるものとして期待が寄せられている。

フリーダム・ドライバー
 フリーダム・ドライバーは、シンカーディアシステムズ(米国)が開発した携帯型人工心臓の商品名である。
 重さ13ポンドで、バッテリーで動作するため、携帯が可能なことを特徴とする。それまでの人工心臓が据え置き型で200kg程度のものが多かったこととは別次元の装置である。価格は約1300万円とされている。
 バッテリーは1本で2時間持ち、乗用車のシガーライターなどからも充電が可能である。
 この人工心臓は埋め込み型の人工心臓と、背負って使う補助装置が2本の管で繋がれている。補助装置が圧縮空気を作り、管を通じて体内の人工心臓のポンプへと送られる。このポンプによって血液を循環させる。
 この装置が米食品医薬品局(FDA)の承認を受けて間もなく、米中西部で初の利用者となったのがスタン・ラーキン氏である。2014(平成26)年11月に人工心臓の移植を受けてから2016(平成28)年5月9日に心臓移植手術を行なって人工心臓を外すまで、555日間も過ごすことができたという。しかも、この人工心臓でバスケットボールの練習まですることができたという。
 人工心臓の進化によって、移植に適合する心臓が現われるまでの期間を、ほぼ不自由なく暮らすことが可能になったと言えるだろう。

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