ブラックホール
読み:ブラックホール
外語:BH: black hole

 あらゆるものを吸い込むとされる天体。いわゆるの一つではあるが、概念的にはが近い。
目次

概要
 ブラックホールの名は、アメリカの理論物理学者ジョン・アーチボルド・ウィーラー(John Archibald Wheeler)によって命名された。
 ブラックホールは仮説の時代から様々な研究が進められ、現在ではその存在は事実と考えられている。
 更に、4次元時空つまり我々が直感的に感じる時空間だけではなく、より高次元空間のブラックホールなども様々な仮説が出されている。これは「高次元ブラックホール」と呼ばれている。
 以下は、特に記載がない場合は通常の4次元時空ブラックホールについて述べる。

種類

属性による分類
 質量M、角運動量J、電荷Q、という三つの属性の状態によって4種類に分類する。
質量角運動量電荷名称
M静止なしシュバルツシルト・ブラックホール
MJなしカー・ブラックホール
M静止Qライスナー=ノルドシュトルム・ブラックホール
MJQカー=ニューマン・ブラックホール

規模による分類
 質量による分類は歴史の変遷があるが、これを著している時点では、次のように分類されることが多い。
 宇宙の天体としてのブラックホールは、恒星・中間質量・超大質量のいずれかである。
 古い呼称で「巨大ブラックホール」は、現在の中間質量および超大質量を合わせたものに相当する。

高次元ブラックホール
 高次元ブラックホールとは、4次元時空(3次元空間×時間)よりも次元数の大きい空間、という視点から見たブラックホールのことである。
 人工的に作る研究が進められているブラックホールは、この高次元ブラックホールである。

特徴

吸引
 ブラックホールは重力が極めて強く、このため内部の光さえ脱出できない。
 また周囲の物質を吸い込み、ブラックホールの質量を増大させる。
 但し、落とし穴に落ちるようにスポッと落下するわけではない。時空が歪んでいるブラックホール周辺では時間が遅れており、外から見る限りはのんびりと吸い込まれるように見える。
 チリやガスがブラックホールに吸い込まれる際、その周囲に落ちるのを待つ円盤が形作られるが、これは「降着円盤」と呼ばれる。

ブラックホールには毛がない
 ブラックホールにはパラメーター(属性)が三つしかない。質量、角運動量、電荷である。つまり大きさはなく、点、あるいは0(無限小)、すなわち「0次元」である。
 この三つ以外の要素は全てブラックホール内に落ち込むため、外部から観測することができないとする。
 ブラックホールの命名者ウィーラーは、このパラメーターが三つしかないブラックホールについて「black holes have no hair.」(ブラックホールには毛がない)と述べ、互いに異なるブラックホール同士の区別が不可能であることを説明した。
 「毛」がないと断ずる根拠はマクスウェル方程式にあるが、その他の理論を元にすれば毛が生える可能性もあり、様々な科学者が育毛研究に励んだ。
 ちなみに日本では、毛が三本しかないことにちなみ、これを「おばQ定理」と呼ぶ向きもある。この命名の代表者は、天文学者の福江純とされている。

質量
 ブラックホールのパラメーター(属性)の一つで、ブラックホールの規模を特徴づける指標が質量である。
 現時点では、観測されているブラックホールの質量は全て有限の値である。ただ、ブラックホールの物性上、その質量は、数学的に無限の値まで許されている。
 これを著している時点で観測史上最小は、2012(平成24)年に発表されたもので、オランダ・アムステルダム大学などの研究チームにより、米ロッシX線天文衛星を用い、さそり座の方向に発見した、太陽質量の3倍弱程度のものである。このブラックホールは恒星との連星になっており、恒星から流れ込むガスが高温となりX線を放出することから観測されたという。太陽質量の3倍弱という質量は、理論上の下限に近い。
 観測史上最大は、2012(平成24)年1月7日に報道された、米カリフォルニア大などの研究チームがハワイのジェミニ北望遠鏡やケック2望遠鏡で観測した、しし座銀河団にある銀河の一つの中心で、太陽質量の97億倍という。また、かみのけ座銀河団の銀河にも同等以上の質量と推定されるブラックホールを発見したという。

特異点と半径
 中心には、密度時空の歪みが無限大となる特異点があり、その周囲は空間の歪みによってすらも脱出できない。
 光が脱出不可能な領域と可能な領域の境界は「事象の地平面」という。この半径シュバルツシルト半径という。
 内側に入ったら再び出られないこの半径内が事実上のブラックホールであると言え、一般にブラックホールの大きさといえば、これを指す。その半径は質量に大きく依存するが、前述のように、実体としてブラックホールは大きさを持っていない点は留意が必要であろう。

変動

衝突(合体)
 二つのブラックホールが連星になっている場合、やがて互いに衝突し合体することがある。
 合体によってブラックホールは質量を増すので、理論上、恒星ブラックホール同士が合体し太陽質量の100倍程度の中間質量ブラックホールをつくり、それらが更に合体を繰り返し、やがて銀河の中心を構成する超大質量ブラックホールへと進化する、というモデルが想定されている。
 ブラックホール同士の合体の場合、などの電磁波が直接的には放たれることはない。しかし一部の質量がエネルギーとして解放されると周囲の時空が歪み、この歪みが波動として伝播し地球にも届くことがある。これが重力波である。
 2019(令和元)年5月2日12:02(JST)(@168)、銀河中心のブラックホールいて座A*(Sgr A*)の近くで観測されたブラックホール同士の衝突では、重力波(GW)信号候補S190521gと共に例外的に光のフレアも観測されたため注目された。予想では、合体したブラックホールの周囲には降着円盤が作られていたが、合体によって生じた重力波によりブラックホールが弾き飛ばされる(運動エネルギーを得る)「キック」と呼ばれる現象が生じ、これによってブラックホールは降着円盤の中に猛スピードで突入、降着円盤の物質がブラックホールに吸い込まれる際にフレアが生じた、とされている。

ホーキング輻射
 スティーヴン・ウィリアム・ホーキングによると、ブラックホールは熱的な放射をしているとする。これを、ホーキング輻射あるいはホーキング放射という。
 ブラックホールは質量から定まる一定の熱放射をしているとし、このため完全に「黒い」わけではないことを意味している。またこれはエネルギーを外部に放射していることを意味するので、ブラックホールの質量は徐々に減少することを意味する。

蒸発
 上述のホーキング輻射を簡略的に説明すると「ブラックホールは蒸発する」となる。
 事象の地平面近傍ではトンネル効果によって物質反物質対生成される。物質と反物質は重力的に反発するため、そうすると一方が地平線の内側に落ち込み、一方が地平線から離れるので、その離れた質量分ブラックホールは質量を失う。遠くから見れば地平線近傍から物質や反物質が沸いて出て、だんだんブラックホールの質量が減るように見えるとされる。

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