電車大環状線
読み:でんしゃだいかんじょうせん

 東京の特定の路線を通過する場合は、その区間の経路を問わずに、通過する部分については、必ず最短距離で運賃料金を計算するというもの。旅客営業規則第70条で定められている。途中下車ができる切符を持っている場合は、乗車経路が途中で重ならない限り、別経路乗車中でも途中下車ができる。
 東京の電車大環状線は、山手線、赤羽線全線と、東北本線東京〜赤羽、日暮里〜尾久〜赤羽、総武本線東京〜錦糸町、御茶ノ水〜錦糸町、中央本線神田〜代々木、東海道本線東京〜品川となっている。
 例えば東海道線三島から中央線三鷹へ行く場合、三島から東海道新幹線に乗って東京まで行くと、実際の乗車経路は新幹線、東北、中央東(東京、四ッ谷経由)となり、この通りに運賃を計算すると2,520円(144.8km)となる。しかしこの規則が適用されるため、運賃計算経路は品川、山手、中央東(原宿経由)となり、運賃は2,210円(138.3km)となる。このとき、乗車した新幹線列車が品川に停まるか通過するかは関係がない。
 ちなみに、国家試験でこの例とほぼ同様の問題が出題された際、模範解答が間違っていたという過去を持つ、難しい規則である。十分な知識が無いまま、この規則を使った旅行計画を立てるのは避けられたい。
 2004(平成16)年の規則改正で電車大環状線の区間が大幅に縮小された。かつて東京地区では大宮、鶴見、蘇我までが電車大環状線の範囲となっていたが、こちらは旅客営業規則第69条 "特定区間" に指定されることになった。一方、大阪地区でも、大阪環状線JR東西線、東海道線の一部に電車大環状線が設定されていたが、こちらは完全に廃止され、大阪〜天王寺が"特定区間" に指定されるだけにとどまった。
コラム(1986(昭和61)年度 国内旅行業務取扱主任者試験問題・一部改)
  金額は2004(平成16)年7月1日現在の値段に修正してありますが, 路線図
  や適用している規則などは, 東海道新幹線品川駅開業前のものです.
  
  〈問題〉           |
    右図の矢印の経路 |      甲府←←←(中央線)←←←←新宿←四ッ谷
    を乗車する目的で |       ↓                       /      ↑
    清水から清水まで |    (身延線)                 原宿       ↑
    の切符を買うとき |       ↓                     |         ↑
    の大人1名の運賃 |       ↓      ┌(東海道線)─品川       ↑
    はいくらか?     | 清←←富      │               \      ↑
                     | 水→→士→→小田原→→(新幹線)→東京→神田
                     |  ┌────┬────┬────┬────┐
    清水〜富士   22.8km │距離(km)│運賃(円)│距離(km)│運賃(円)│
    富士〜品川  139.4km ├────┼────┼────┼────┤
    富士〜東京  146.2km │  7〜 10│     190│121〜140│   2,210│
    品川〜新宿   10.6km │ 11〜 15│     230│141〜160│   2,520│
    東京〜新宿   10.3km │ 21〜 25│     400│361〜380│   6,090│
    新宿〜甲府  123.8km │ 81〜 90│   1,450│381〜400│   6,300│
    甲府〜富士   97.2km │ 91〜100│   1,620│401〜420│   6,620│
              (換算キロ)└────┴────┴────┴────┘
  
  〈解答〉
    まず, 清水〜富士の乗車経路が重なるため, 切符は清水→富士(東海
    道, 中央東, 身延経由)と富士→清水(東海道経由, 400円)の2枚に分
    かれる(連続切符となる).
    目下の問題は清水→富士の切符であり, 乗車経路通りに計算すると,
    東海道(東京), 中央東(四ッ谷), 身延経由となるため, 合計400.6km,
    6,620円となる. しかし品川〜新宿で東京大環状線を通過しているた
    め, 運賃計算の経路は東海道(品川), 山手(原宿), 中央東, 身延経由
    となり, 合計393.8km, 6,300円となる. これに富士→清水の400円を
    加え, 合計6,700円.
  
    という答えが出題者の意図であった.
  
    しかし, ここで「品川〜新宿で…運賃計算の経路は…原宿経由」とい
    う理論が成り立つ根拠は, 在来線経由の切符でも新幹線に乗れるとい
    う "選択乗車" 制度を適用していることである. この選択乗車制度は
    東京大環状線とは違い, 必ずしも適用しなければならない規則では無
    い. このためこの規則を適用しないことを考える. すると,「東京〜
    小田原間は(途中に新横浜駅があるため)在来線と新幹線を別線扱いす
    る」という規則が適用されるため, 東京大環状線を通過する部分は,
    東京〜新宿となる. このとき四ッ谷経由の経路が東京大環状線通過部
    分の最短経路となるので, 運賃計算経路は東海道, 小田原, 新幹線,
    東京, 中央東, 身延経由となり, 6,620円という運賃も間違いでは無
    くなる. 従って, これに富士→清水の400円を加えた7,020円という解
    答も正解となっていた.
  
    国鉄時代にはこのようなケースでは, まず間違いなく原宿経由の切符
    が売られていたが, JR化直後の窓口では, 東京〜小田原の新幹線と在
    来線の会社が違うこともあり, 新幹線経由と申し出た客には四ッ谷経
    由, 在来線経由と申し出た客には原宿経由の切符を売ることが多かっ
    た.
    しかし制度上は昔からまったく変化が無く, 原宿経由の切符で新幹線
    に乗っても問題は無かった. 現在では新幹線品川駅が開業し, 東京〜
    品川が新在同一視されることとなったので, この例で東京経由で売る
    係員は, 単なる知識不足である.

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