V-22
読み:ヴィー-にじゅうに
外語:V-22 Osprey

 アメリカのベル・ヘリコプターとボーイングが共同で開発・製造している、ローター(回転翼)を水平や垂直に方向転換する事でヘリコプターのような機動と固定翼機のような高速水平飛行を両立させた所謂ティルトローター構造の輸送機。愛称は「オスプレイ」。
目次

情報

概要
 アメリカ海兵隊がCH-46の後継として輸送型MV-22B、アメリカ空軍がMH-53の後継として特殊任務型CV-22Bを導入した。
 アメリカ海軍も救難型HV-22を導入予定だったが現時点で動きは無く、改めてC-2輸送機の後継としての導入を検討している。一時期対潜型SV-22も検討されていたがキャンセルされている。
 イギリス海軍ではシーキングAEWの後継としてCH-101と並んでオスプレイが艦載型早期警戒機の母機として検討されている。

特徴

日本の米軍基地
 2013(平成25)年現在、沖縄の普天間飛行場で、老朽化したCH-46と交代でMV-22Bの配備が進んでいる。
 また戦闘捜索救難用として嘉手納飛行場にもCV-22Bが配備される予定。横田にもCV-22Bが配備されるという情報もあるが、現時点では詳細不明。

性能
 ヘリコプターの特性と固定翼機の特性を兼ね備え、特に主翼による水平飛行が可能なこともあり、航続距離が一般的なヘリコプターと比べて長い。
 前任のCH-46だと普天間飛行場からほぼ沖縄本島周辺でしか行動できないのに対し、MV-22Bでは台湾北部までが戦闘行動半径となる。
 また空中給油によって航続距離を伸ばす事も可能で、既にオーストラリア近海で行動中の強襲揚陸艦へ沖縄から空中給油機KC-130Jを伴って途中着陸1回での長距離展開も行なわれている。

必殺兵器?
 航続距離が長いことから、反対派には侵略的な兵器とみなされ、賛成派からは尖閣諸島防衛の切り札とされることが多いが、基本的には古い輸送ヘリコプターを更新するためのただの輸送機に過ぎない。
 今までよりは色々と便利になるのは確かだが、これが一つ加われば戦闘に勝利出来るというような必殺兵器では無いので、過度の期待は禁物である。
 戦局に対する影響力はあくまで戦術や随伴護衛の質などとの総合的な判断になる。

モード
 日本語では分かり易くする為に、ローターを水平にした状態を固定翼モード、垂直にした状態をヘリコプターモード、その中間を転換モードと呼ぶことが多い。
 現場ではそれぞれAPLNmode(エアプレーンモード)、VTOL mode(ブイトールモード)、CONV mode(コンバージョンモード)と表記される。

由来
 元々はアメリカ海兵隊が切望していた輸送機である。
 海兵隊が利用する強襲揚陸艦は沖合からヘリコプターで一気に陸地に兵士を展開させるための艦種だが、ヘリコプターだと高速化に限界があるため移動時間を圧縮する事ができず、可能な限り敵地から船を遠ざけたくてもヘリコプターの短い航続距離の範囲でしか距離を取れなかった。
 それがオスプレイの登場によって、より離れた沖合からより高速での上陸を行なえるようになり、オスプレイはまさにアメリカ海兵隊の要望に見事に応える夢の輸送機として完成された。
 またアメリカ海兵隊は海の移動を主体とした軍隊から空の移動を主体とした軍隊へと比重を移しつつあり、それを支えるオスプレイは今後のアメリカ海兵隊の進化を占う鍵となる輸送機でもある。

垂直離着陸
 基本的には垂直離着陸機だが、多くの大型ヘリコプターと同じく積載量が多い場合はローターを斜め上に向けて滑走離陸する。
 但しヘリコプターの離陸滑走はローターが生み出す下降気流に影響されない範囲にローターを進め続けて揚力を強化する事が主目的だが、オスプレイの離陸滑走は主翼で揚力を生み出すのが主目的となる。

武装
 現在実戦配備されているMV-22BやCV-22Bは輸送型なので、特に戦闘に参加するほどの武装は想定されていない。
 初期にはMV-22Bの機首にGAU-19ガトリングガンを装備する案もあったがキャンセルされ、後部のローディングランプにM240機関銃やM2機関銃を装備している程度であるが、その後、日本の自衛戦闘用にGAU-17ガトリングガンとリモートコントロールシステムを組み合わせたIDWSと呼ばれる兵装の配備が始まっている。

民間型
 民間型BA609を、ベルとイタリアのアグスタ・ウェストランドが合弁会社で開発していた。
 しかしベルが脱退したため、アグスタ・ウェストランドが単独でAW609として開発を継続中である。
 従来に無いカテゴリーの航空機なのでFAAの耐空証明はパワードリフトという新しいカテゴリーを新設して審査が行なわれる。

事故率

輸送型MV-22B
 MV-22Bの実戦配備後の事故率は非常に低い。
 しかし難開発のため、試作段階においては何度かの墜落事故があり、多くの死者を出した。
 日本ではこのセンセーショナルな危険イメージが付き纏い、日本で最初に搬入された岩国飛行場にはMV-22Bより事故率が数倍高いAV-8Bハリアー戦闘機が配備されているにもかかわらず、なぜかオスプレイに対して県や市が懸念を表明するという逆転現象が起こっている。
 もちろん絶対に事故を起こさない訳では無いが、特別に事故を起こし易い機体でもない。海外でも配備が進んでいたり何度も航空ショー等でデモフライトが行なわれたり、オバマ大統領の旅行で大統領一家の移動に使われたりもするなどしているが、安全上の懸念が表明される事はまず無く、オスプレイを殊更に危険視しているのは既に日本だけである。

特殊任務型CV-22B
 CV-22BはMV-22Bよりかなり事故率が高いが、これは特殊任務を担当するという任務の困難性による。
 他のヘリコプターも、特殊任務用は同型機より数倍事故率が高いので、事故率は機体欠陥等ではない。実際、CV-22Bの墜落事故は作戦行動中もしくはその演習中ばかりである。駐留基地での離着陸時にCV-22Bの事故を過大に恐れる必要はない。

政府用
 大統領やホワイトハウス関係者を運ぶヘリコプターを運用する第1海兵ヘリコプター隊にもMV-22が配備されており、ホワイトハウス関係者を運ぶ為の特別塗装機となっている。
 塗装以外は特別な仕様にはなっておらず、必要に応じてVIPキットと呼ばれる内装セットを搭載する。
 現時点では大統領専用ヘリコプター更新候補にはなっていないが、ただでさえ予算超過問題が起こっている大統領専用ヘリコプター後継機レースに、同じクラスでありながらヘリコプターより2倍程度高価なオスプレイを提案しても、勝ち目は殆ど無いと思われる。

救難機
 ヘリコプターより長距離を飛んで現場上空で静止出来るため、救難機として注目されることも多く、カナダやイスラエル等も救難機として導入を検討している。
 海上自衛隊でも一時期海上救難用に導入を検討していたが、高価であることに加え、下降気流が通常のヘリコプターより強いので要救助者に悪影響が出る可能性があるとして取り止めになっている(但し、各国で救難機として採用や検討が続いているので、実際には悪影響は軽微である)。
 また陸上自衛隊の海兵隊的部隊の機動展開用に2015(平成27)年度からの導入を予定している。

アメリカ陸軍
 機材更新時期との兼ね合いもあり、一般にアメリカ軍と呼ばれるアメリカ陸海空軍+海兵隊の中で、唯一アメリカ陸軍にはオスプレイ導入計画がない。
 現在、ベルは単独で、オスプレイより世代が進んだ新型ティルトローター機V-280バローをアメリカ陸軍のブラックホークの後継ヘリコプター開発プロジェントであるJMR-TDへ提案している。

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